開催レポート|フジロックから築き上げた「野外フェス」の楽しみ方は、コロナ時代にアップデートされるべき「ROVO LIVE FOREST 2020」

7月11日(土)に開催した「ROVO LIVE FOREST 2020」は、とても価値がある時間でした。ROVOの演奏がすばらしいのは言うまでもないこと。

特に強調したいのは、あの時間、あの場所で起きたことが「ありのままの”今”」であったこと。「コロナ時代のフェス」への希望と課題を多くの人と共有しました。

無観客から観客ありへ、野外フェスへの挑戦

そもそもこのイベントの立ち位置は、ROVOを率いる勝井祐二さんと共に積み重ねてきた「コロナ時代のフェスのあり方」の過程の途中にあります。

アースガーデンでは、今回のイベントを含めて5回、同じ場所で音楽イベントを開催してきました。
第1回目は5月15日。緊急事態宣言下での無観客の配信イベントで、現地スタッフは最小限にとどめました。

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第2回目は、5月30日。配信を中心にしながらも関係者を15人ほど入れて、小さいながらアーティストと観客がいる形を作りました。

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第3回は、6月14日。はじめて観客を公に募り、70人限定の会場入場チケットを発売しました。配信もしながら、それなりの規模の集客イベントを開催。第4回は地域の方を中心にした場づくりで配信なしで、会場入場チケットのみ発売。

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そしてついに5回目の今回。150人の参加者とスタッフ、関係者をいれて 200人以上が会場に集まり、配信チケットも200枚以上売れました。

この5回の「野外音楽ライブ」に加えて、トークイベントも開催。

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この過程の多くに勝井さんはご出演いただき、#ライブフォレスト で開催する「コロナ時代の野外ライブ」に可能性を感じてもらいました。その流れの延長で、勝井さんのご提案でROVOのワンマンライブが実現したのです。

野外フェスの感染対策をイチからつくる

現状、野外フェスの開催に関する感染対策のガイドラインは存在しません。医療従事者などとの対話の場も作りながら、同業界・他業界の感染対策も参考にしながら「コロナ時代の野外ライブ」の自主的なガイドラインや感染対策を積み上げてきました。参加者もアーティストも地元の人も、当然スタッフも、関わる誰もが安心して参加できるイベントの形を考えてきました。

そもそも、野外で適切な空間の広さがあれば、密閉・密集・密接のうち、密閉と密接はクリアしています。

さらに例えば…

・チケット販売時には、購入者のみならず参加者全員の個人情報を取得し、万が一感染者が場内にいた場合、濃厚接触者の情報を必要機関に渡せるようにする。

・入場の際には、体温確認とアルコール消毒を徹底。また一人ひとり名前を確認し、購入者のうち誰が来て、誰が来ていないかを把握する。

・会場には適切な距離を空けてイスを設置。参加者同士の距離を取る。
などなど。

この積み上げは「コロナ時代の野外ライブ」から「コロナ時代の野外フェス」への準備でもありました。

今回のROVO LIVE FORESTは「ライブ」と「フェス」の間です。これまでの出演者よりもダンサブルな音楽で、多くの参加者に来てもらい、飲食出店を出すという、新しい要素を加えています。

ROVOの胸を借りて、すでに開催を発表した「 #ライブフォレストフェス 」を想定した私たちの挑戦の場でもありました。

しかし、準備をすすめる中で、東京の新型コロナ感染者が再び増加。開催直前にはROVOのお二人を迎えたトークプログラム「今、フェスができること、音楽ができることVol.2−動き始めた限定集客ライブと模索を続けるライブハウスの未来−」を急遽開催し、率直な意見をいただきました。

ダイジェスト版テキスト「今、フェスができること、音楽ができることVol.2−動き始めた限定集客ライブと模索を続けるライブハウスの未来−」

「野外フェス」が戻ってきた!

そうして迎えた当日。連日降り続いた雨は奇跡的にやんで、水分を含んだ森の緑が美しい最高のライブ日和。ROVOの宇宙的音楽は、照明やVJの幻想的な演出により、自然との一体感を生みました。

去年までは手を伸ばせばすぐに届いた、音楽とともに自分が天高く登っていくような高揚感。いつの間にか遠くに行ってしまったあの体験が、目の前にありました。

歩き回ることができる空間的な広さ、飲食を提供する出店、ROVOのグッズを売る物販。これも去年までは当たり前にあった光景です。手を伸ばしても決して届かないところにいってしまった「野外フェス」が戻ってきた。

音楽に酔う参加者の楽しそうな顔を見たのもとても久しぶりでした。

これまでの開催で、配信のクオリティも確実にアップしています。機材のアップデートはもちろん、画角やカメラ割、構成なども多様になり、音質も素晴らしいはず。映像チーム、音響チームが素晴らしい仕事をしてくれています。

「自由っていうのは、自分勝手にやることじゃない」

参加者のみなさんは、イスに座りながら音楽を楽しみ、気持ちが高揚すればイスの前で踊ってくれました。きっと本当は、ステージ前で、人目もはばからず全身に音楽を浴びたかっただろうと思います。でも、我慢してくれた。これまでは「我を忘れる」ように踊っていたけれど、コロナという現実を踏まえて、私たちが決めたガイドラインを守ってくれていました。参加者の皆さん、本当にありがとうございます。

野外フェスの環境下で、どこまで近づいたらダメなのか、どれだけ離れていれば安心なのか、声を出して良いのか、絶対的な「正解」は誰も教えてくれません。だからこそ、新しい時代のフェスの楽しみ方を、あの場にいる全員が考えました。

いろんな考え方の人がいます。一部の人、本当に数人で、しかも短い時間ではありますが、ステージ前に人が集まってしまった。彼らなりに「節度」を保っていたのかもしれません。しかし、その行動を不安に感じた人もいた。街の中にいろんな考え方の人が生活しているように、あの場にいた人の考え方もそれぞれ違いました。「ありのままの”今”」が、そこにはありました。

そんな「ありのままの”今”」をきちんと評価してくれたのは、ともに場を作り上げてきた勝井さんでした。

アーティストは「炭鉱のカナリア」だ、と言われます。炭鉱で有毒ガスの発生を人間よりも先に教えてくれるカナリヤのように、アーティストは世の中を鋭い感性で見つめ、誰よりも先に問題提起をしてくれるからです。

勝井さんが、演奏を終えて語った内容を記します。

「今日はありがとう。でもね、こういう音楽をやっておいてあれだけど、みんな、一回落ち着こうよ。
 
騒ぎたい気持ちは、俺たちも本当によくわかる。わかるけど、あのころと同じじゃダメなんだよ。ここは、新型コロナが感染拡大するまえのフェス会場じゃないんだ。
 
自由っていうのは、自分勝手にやることじゃない。今日は、みんな一人ひとりの「人間性の”クオリティ”」が試されているんだよ。
 
今日は来てくれて本当にうれしいよ。
 
でもね、今日、ここにみんなが集まれたことの意味を、真剣に考えてほしい。これまで17年間日比谷野音で続けてきた俺たち主宰のMDT Festivalはじめ、フジロックや多くのフェス、ライブが来年も続けられるかどうかはわからない。でも、あるとしても、これまで築いてきたモノとは全然違うものになるはず。
 
新しいフェーズを迎えるべきだし、そうならざるをえない。新しい時代を、新しいクオリティで生きていかなきゃいけないと思う。
 
みなさんも一緒に、そうやって生きていきましょう」

「たった数人のためにこんな説教みたいなこと、言いたくなったんだけど…」って勝井さんは思っているんじゃないかなと感じたMCでした。

ずっとみんながフェスで楽しめるように

今回の開催を踏まえ、次回はルールをアップデートします。(追記:アップデートの内容はこちら

具体的な方法は近日中にお知らせしますが、特にステージ前や飲食にともなう、密集、密接については対策と工夫を進めます。待機列の並びにもご意見いただきました。ここも方法を変える必要があるでしょう。再び、増加傾向にある感染者の状況も常に情報収集し、必要な対策や、開催の判断をしていくことになります。大事なことは、参加者も出演者も地元の人もスタッフも、みんなが安心して楽しめることだと思っています。

フジロックは、嵐の天神山での混乱を経て、参加者とともに成長しながら「野外フェス」の楽しみ方を築き上げた。今、同じように「コロナ時代のフェス」の楽しみ方を、みんなで作っていかなくてはいけないと考えています。

フェスを「やる・やらない」という二項対立で思考停止することなく、フェスを続ける方法をどうにか探っていくことが大事なのだと私たちは考えています。それには、主催者やアーティストの努力はもちろん、参加者のみなさんの意識改革、成長、行動変容がとても大切。それらが絶対に必要です。

フェスカルチャーをつないでいくために、みんなの知恵と協力と勇気が不可欠です。来年も再来年も、10年後も50年後も、ずっとみんながフェスで楽しめるかどうか、一人ひとりに問われています。そのくらい、大きな潮目に私たちは立っているのだと思います。

文:葛原信太郎 / 写真:船橋岳大

#ライブフォレストフェス
-森と川と焚火の音楽祭-
2020/7/31-8/2

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