グラストンベリー・フェスティバル体験記2|ジューン・ブライドとブリティッシュ ブレイクファースト

世界中の音楽フェスティバルのモデルとなった、イギリス ワージーファームで開催されているグラストンベリー・フェスティバル。見た事、感じたことをそのまま伝える体験記連載第2回。

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グラストンベリーフェスティバル体験記1

グラストンベリー・フェスティバル体験記2

グラストンベリー・フェスティバル体験記3

グラストンベリー・フェスティバルは小さな街のようだった。

土曜日。天幕越しに照りつける太陽の眩しさで目が覚めた。時計の針は正午を回っている。テントの中はとても蒸し暑い。よくこんなところで寝てられたなと我ながら思う。上野はまだまだ寝ており、起きる様子がない。昨晩は夜明けまで遊んでいた。

RADIOHEADのライブのあと、グラストンベリー・フェスティバルのナイトライフを楽しんだ。FUJIROCKでもそうだけど、フェスティバルは昼より夜の方が好きだ。太陽の下で聞きたい音楽と、星空の下で聞きたい音楽の好みの違いもあるだろう。ただ金曜日から朝まで踊るつもりはなかった。そろそろ寝ようかとテントへ向かう途中に聞こえてきたHOUSE MUSICに惹きこまれて、踊らされてしまったのをうっすら覚えている。DJはMYLOだった。

Silver Hayes はHOUSE、TECHNO、HIP HOP、GRIMEとジャンルレス。
Silver Hayes はHOUSE、TECHNO、HIP HOP、GRIMEとジャンルレス。

あまり記憶がないのだけどたぶん楽しかったんだろうなと思う。心地よい疲労感と二日酔いが身体には残っている。そしてベルトのバックルが壊れていることに気がついた。

土曜日の昼間は特に見たいアーティストがいなかったので、壊れたベルトの変わりを見つけることから始めることにした。グラストンベリー・フェスティバルはまるで小さな街みたいで、必要なものは大抵売っている。

シャツやパンツ、アクセサリーに帽子はもちろん、雨具、充電器、電池、風邪薬や化粧品、オムツ、カメラといったものから、ボードゲーム、パーティグッズ、レコードも売っており、まるでカムデン(ロンドンでも人気の高い街の一つ。週末のストリート・マーケットが有名)のマーケットのようだった。テントや防寒具も充分揃っていたので、会場で購入しても良いかもしれない。マッサージ屋や散髪屋もあった。

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僕はデニムにTシャツ、足元はエア・フォース1というコーディネートで過ごし、夜はパーカーを羽織る程度。女の子はみんなおしゃれを楽しんでいた。ツィッギーみたいなレトロなワンピースを着ていても、足元は長靴でフェス仕様だったりする。キラキラしたラメを目のあたりに貼るのが流行ってる。キラキラしたパウダー状になっていて、顔に振りかけるようにして使う。日本でも流行りそう。上野はドラァグクイーンにそのパウダーを思い切り頭からかけられて、その後3日間くらいくらい上野の頭がキラキラしてた。

リアム・ギャラガーがグラストンベリーで、DON’T LOOK BACK IN ANGER を歌った。

この日のトピックスはリアム・ギャラガーがOASISを解散後にはじめて ”DON’T LOOK BACK IN ANGER”を歌ったことだろう。ニュースになったので知ってるという人もいるのではないでしょうか。僕がグラストンベリー・フェスティバルを知ったきっかけの漫画「BECK」の映画版のエンディングテーマであり、多くの人の思い出にあるだろう名曲。

ロンドンの街なかでもフェスティバルの会場でも、イギリス人はよく歩きながらこの曲を歌っている。マンチェスターで起こったテロ以降、この曲は特別な意味を持つことになった。

ロンドンのサブウェイでOASISを歌い出す人々

OASISのギャラガー兄弟は熱狂的なマンチェスター・シティのサポーターとしても知られるなど、地元のマンチェスターを愛する発言は数多い。マンチェスターの市民もOASISを街の誇りとしている。マンチェスターでのテロは音楽を愛する人が標的となった。アリアナ・グランデのファンがいったい何をしたというのだろうか。もうこれ以上悲しみはいらない。これ以上怒りを連鎖させてはいけない。テロで亡くなられた方々に、心からお悔やみを申し上げます。

”DON’T LOOK BACK IN ANGER”には平和を願う歌詞などはいっさいない。リアムはこの日のインタビューで、この歌が必要だと思ったから歌たっただけだと言っていた。その後のワールド・ツアーで、”DON’T LOOK BACK IN ANGER” は歌われていない。

カフェオレが美味しいパークステージにあるカフェ。ジブリ映画にでてきそう。
カフェオレが美味しいパークステージにあるカフェ。ジブリ映画にでてきそう。

SIGRIDは全く知らないアーティストだった。知らないアーティストに出会えることもフェスティバルの楽しみのひとつ。パークステージが望める丘の上にジブリ映画に出てきそうなカフェがある。そこでコーヒーを飲んでいるときにステージでパフォーマンスをしていたのが彼女だった。何年か後に大きなステージで観たいなと思わせる、スケールの大きさを感じた。

THE AVALANCHES、SOLANGE、KT Tanstall、KATY PERRY、FOO FIGHETERS、Phoenixなどを観つつ、ヘッドライナーにはFATBOY SLIMを選択した。FATBOY SLIMは毎年どこかしらのステージに出演しており、Mr. GLASTONBURY FESTIVALと言える存在。グラストンベリーのオーディエンスが盛り上がるポイントを知り尽くしているDJで、クラウドたちも全力でそれに応えていた。FUJI ROCKではISHINO TAKKYUがそれにあたる。

ヘッドラインの時刻には観たいアクトがたくさんいる。今日はTHE JACKSONSとALT-Jを諦めたし、昨日はTHE FLAMING LIPSにLORDE、Annie Macを諦めた。たぶんどれを選んだとしてもどれかを選択しなかった後悔が残るだろうなと思い、考えることをやめることにした。グラストンベリー・フェスティバルではそれが正解だと思う。

夜はNU GARAGEというムーブメントが気になってBLOCK9へ向かったが、大渋滞で身動きがとれない。入場制限がかかったステージが表示されてる電光掲示板があって、リストのなかにBLOCK9の文字を発見。そういうときは潔く諦めて、他のステージへと向かうことも正解だと思う。ローンチされたばかりのFUNKTION ONEでプレイするA GUY GALLDE GERALDでは音楽の立体感を感じ、パルプのジャービス・コッカーのDJはMOLOKOをプレイしたり、サイレントディスコではJustin Biberを大合唱したりと、行きたい場所には行けなかったけど、なんだかんだで楽しめた夜だった。


離れた場所からも見えるArcaduaの炎は、灯台の灯のようにフェスティバルの夜を灯す。DJはBoys Noize、Jon Hopkins、Groove Armada、など。

グラストンベリーのブリティッシュブレイクファーストは、世界一美味しいと思う。

最終日の朝。近くのテントのイギリス人が、開催中に一度も雨に降らないのは奇跡だよ。お前はベリーラッキーガイだと、歯磨きをしながら言った。グラストンベリー・フェスティバルが夏至に開催されているのは、一年で最も陽が長いことと、降水量が少ない季節であることも関係している。雨が多いイギリスにとって、大事にされている季節だ。ちなみにジューン・ブライドの起源はイギリスで、雨が降らないことが由来である。日本とは真逆だ。

毎朝、ガーディアン紙が発行している新聞が売っている。フェスティバルで起こったトピックが記事になっていて、今日の一面は全身スパンコールの衣装を着たケイティ・ペリーだった。

グラストンベリー・フェスティバルで楽しみにしていたのが朝ごはん。イギリスは料理が美味しくないと言われているけど、グラストンベリーのブリティッシュブレイクファーストは、世界一美味しいと思う。焼きたてのベーグルにバター、そしてすこし焦げたベーコンエッグ、それとミルクティーのセットは寝起きの身体をすこしづつ活性化させてくれる。他にもフェスなのに石窯で焼いているピザ屋が好きだった。すりおろしたアップルとジンジャー、レモンを入れた紅茶は夜に飲むととても暖かかったし、ベーシックなプレーンドーナツは最強だった。

マッシュルームにチーズとハラペーニョ、香草をまぶしたものにガーリックトーストをあわせたもの
マッシュルームにチーズとハラペーニョ、香草をまぶしたものにガーリックトーストをあわせたもの

カモメがゴミを漁っている。環境についてのとりくみはFUJIROCKが圧倒していた。ただグラストンベリーのオーディエンスの環境リテラシーが低いのかというとそうでもなく、はじめはみなきちんと分別をしてゴミ箱に捨てている。ゴミ箱のキャパシティや、ゴミの回収が追いついていないのである。何もないところに誰かがゴミを捨てると、そこにどんどんゴミを捨てはじめるのである。しくみを変えればグラストンベリーのゴミは減るだろう。誰もゴミの多いフェスは望んではない。人間はただ、怠惰なだけだ。

グラストンベリーにもiPledgeがいればいいのに。
グラストンベリーにもiPledgeがいればいいのに。

もうひとつの課題はドラッグ問題。もちろんイギリスでも違法であり、見つかれば逮捕される。会場には多くのセキュリティとポリスがいて、昨年は300人ほど逮捕されたらしい。グラストンベリーにはそんな負の側面もある。

フェスティバルには、たくさんの美しいシーンが、散りばめられている。

午後、とても美しい体験をした。ジョー・ストラマーの名がついたエリアがあるとクリスにきいて探していると、その名もEARTH GARDENとかかれた静かな庭園に迷い込んだ。そこには小さい協会があって、神父さんが新郎神父に祝いの言葉をかけていた。眺めていたらお茶をいただく。ふたりをお祝いするお茶だという。フェスティバルはふたりを厳かに祝福していた。

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グラストンベリー・フェスティバルは年齢層が幅広い。日本のフェスでは年配の人を見かけることは少ないが、グラストンベリー・フェスティバルでは本当にたくさんのおじいちゃん、おばあちゃんがいて、笑いながら踊っている。フェスティバルが文化として定着し、50年の歴史があるイギリスでは当たり前の光景なのかもしれない。僕らもこのように年齢を重ねていきたい。

たまにおばあちゃんに声をかけられる。「あなたどこから来たの?」「日本だよ」「グラストンベリーはどう?」「最高だね!」「このあとはどのバンドを観るの?」「CHICとED SHEERANかな」「夕方のシークレットゲストは誰だと思う?」「わからないけどTwitterではThe Killersっていう噂があるね」「The Killers本当に? 本当だとしたらとてもファンタスティックね!」という会話をしたおばちゃん。The Killersのシークレットライブ観れたかなぁ。

のちに2017年のマーキュリー・プライズを受賞することになるSampaを観たあと、楽しみにしていたLONDON GLAMMERを観た。日本にいるとなかなか観れないアーティストを観れることは海外フェスの醍醐味である。初めて聴いたLONDON GLAMMERの声はとても優しく力強く神秘的で、一瞬で心を掴まれた。”BIG PICTURE” のイントロが鳴ったとき後ろにいたパンクスの少年が、「Oh! Fxck’n Lovely My Girl Fxck’n Loves Song!!」と叫んでおり、糞と愛が表裏一体なF WORDが聞けるところも、海外フェスの醍醐味だなと思った。

CHICがナイル・ロジャース自身がプロデュースした、デビット・ボウイの”Let’s Dance”をカバーして、ピラミッドステージを世界一大きなディスコに変えていたころ、HAIMの美人3姉妹はステージ上を走り回ってROCKしていた。 BEAT HOTELではJAMIE XXが& FRIENDS CLOSIMG PARTYと称して、PEGGY GOUやSAMPHA、CLLL SUPER、JOB JOBSEらと、8時間以上BtoBロングセットをやっている。

なんでこんなに楽しんだろう。音楽が好きで、自然が好きで、アートが好き。大自然のなかで友人と酒を飲み、好きなバンドのライブが見れるのだから、これ以上楽しいことは無い。けれどそろそろ終わってしまう。フェスティバル最終日の夕方には、そんななんとも言えない切なさがある。 そんな切なさを抱きながらピラミッドステージへと向かった。ヘッドライナーはED SHEERANだ。

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グラストンベリー・フェスティバル体験記2

グラストンベリー・フェスティバル体験記3

Masayuki Takahashi

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1983年 埼玉県出身 のライター、編集者、DJ。サラリーマンとして勤務しながら、音楽、映画を中心にフリーライターとして活動中。DJ PIECEとして TOKYO HOUSE AND DISCO PARTY sheep にてレジデンスを務める。
http://sheep.tokyo