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グラストンベリーフェスティバル体験記1| マンチェスターの音楽とRADIOHEADの記憶

グラストンベリー・フェスティバルは正式名称をGlastonbury Festival Of Contemporary Performing Arts という。音楽だけではなく、アートフェスティバルでもある。

あれは夢だったんじゃないかなと思うくらい、素晴らしい体験だった5日間。あの体験をシェアしたく原稿を書きました。グラストンベリー・フェスティバルで見た事、感じたことを、そのまま記していきたいと思います。

ここに記させていることは広大なグラストンベリー・フェスティバルのほんの一部にしかすぎません。また、TIPSやライブレポートはあまりありませんのでご了承ください。

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グラストンベリー・フェスティバルとはなにか

グラストンベリー・フェスティバルとは、イングランド サマセット州、ワージーファームで1970年から開催されている野外フェスティバルである。ひとりの牧場主が始めたフェスティバルは歴史を重ね、18万人が集まる世界最大のフェスティバルとなった。FUJIROCKをはじめとした世界中の音楽フェスティバルのモデルでもある。

僕がグラストンベリー・フェスティバルの存在を知ったのは、高校生の頃に読んだ漫画BECKがきっかけ。いつか行ってみたいと思いながらもチケットの獲得が非常に困難で、チケット販売日には世界中からwebサイトへアクセスが集中し、購入ページが表示されない。そして18万枚のチケットが30分弱で完売する。僕は数年間チケット獲得にトライし続け、ことしやっと念願のチケットを手いれた。なお、この時点で出演アーティストは誰ひとりとして発表されていない。

2017年6月21日 水曜日。時計の針は20時を廻っているが、この時期のイングランドは陽が長くまだ充分に明るい。ロンドン、ビクトリアからバスに乗ること4時間半。窓から見える牧場の風景に見飽きた頃、会場であるワージーファームへと到着した。牧場特有の牛や馬の匂いがするが嫌ではない。

入場ゲートではEarth Wind & Fireの”Septembar ”がかかっており、女の子がリストバンドをつけてくれた。マンチェスターでのテロの影響で荷物チェックが厳重だという情報があったが実際はほぼスルーだった。僕が日本人だからという訳ではなく他の誰に対してもチェックしておらず、少し心配になる。

上野と合流した。僕はロンドンで仕事があったので、先行した上野がテントを建ててくれていた。今回は上野がフェスティバルのチケットの手配から飛行機の予約、ロンドンでの宿泊の準備とキャンプに必要な道具を全て揃えてくれた。僕はお金を出しただけで何もしていない。

グラストンベリーはもともとアーサー王伝説の聖地であると言われており、有名なグラストンベリー・トーがある場所である。主催者であるマイケル・イーヴィスはそんな伝説が好きな男で、ステージ名などにその影響を見つけることができる。またイングランドにある古代遺跡の場所を地図上でラインを引くと綺麗な直線になることがあり、それをレイラインと呼ぶ。なかでも夏至の日の出の方角に沿って配置されているセント・マイケルズ・レイラインには有名なストーンサークル群と併せてグラストンベリーが含まれている。グラストンベリー・フェスティバルが毎年夏至の時期に開催されているのには、様々な意味が込められている。

会場内にあるストーンサークル
会場内にあるストーンサークル

会場はとても広大で、ステージは大小合わせ100以上ある。ステージごとにコンセプトに沿ったモニュメントがあり、まるでディズニーランドのアトラクションのようだった。農場の中に突如ブラジルのファベーラがあらわれても、ニューヨークのダウンタウンがあっても、巨大な蜘蛛型のロボットが火を吹いていても、グラストンベリーのトーン&マナーにあっているから不思議である。僕らはビートホテルという、古いロードムービーに出てきそうなモーテルみたいなクラブの近くにテントを立てた。そこではLOVEFINGERSがDJをしていた。

BEAT HOTELはNU DISCOのDJが多く出演していた
BEAT HOTELはNU DISCOのDJが多く出演していた

広大すぎる会場の位置感覚を掴むのは難しい。イギリスの携帯キャリアであるEEが提供しているアプリのおかげで、自分がいまどこにいるかを知ることはできた。どこにいても何かしら音楽が聴こえ、いたるところがデコレーションされているのでただ歩いているだけでも楽しい。VR GLASTONBURY FESTIVAL が発売されたらヒットすると思う。

深夜、ジョン・ピール・ステージの近くにキャンドルの灯りがゆらいでいる静かな森があった。森の中にある木琴を叩いてはしゃいでいる子供たちを眺めていたときに、グラストンベリー・フェスティバルにいるんだなぁとだんだん実感が湧いてきた。

マンチェスターで産まれたパーティアンセムが、フェスティバルの開催を告げた。

木曜日。天候は晴れ。この週のイングランドは記録的な猛暑が続いていたのだが、時折吹く風がとても心地良く不快感は無い。ワージーファームはとても風が強く、フラッグがかっこよくなびいている。

給水場で歯磨きをしていると日本人の女性に会った。日本人はとても少なく開催中に見かけたのは10人程度だった。彼女から今夜、EVERYTIHING EVERYTHINGが出演するという噂を聴いた。グラストンベリー・フェスティバルをより楽しむためには情報戦に勝つ必要がある。いつどこでだれがシークレットで出演するのか、多くの噂から真偽をたしかめる能力が求められるのだ。今年は最終日にシークレットライブで、本来ヘッドライナーでもおかしくないThe killersが出演した。情報の取得が遅れると入場規制がかかりライブは見れなくなる。LINE IDを交換して情報をシェアしましょうという条約を結んだ。

夜にはジョニー・デップが出演するという情報を得て映画を上映するエリアへ向かった。すると目の前に止まっていたキャデラックからジョニー・デップが出てきたなんて出来事があった。またトム・ヨークがDJをするという噂もあったがガセだった。

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水曜日からDJたちはいたるところでPARTYをはじめていた。グラストンベリー・フェスティバルはクラバーにとっても天国である。巨大なLEDディスプレイのあるシルバーヘイズではエレクトロ、ローマ帝国のコロシアムのようなTHE COMMONではHIP HOP、スチームパンクな雰囲気のSHANGLI-LAではグライムなど、気分と聴きたい音楽に合わせて移動することができる。

FATBOY SLIMやSasha & Digweed、BOYS NOIZEといったヘッドライナークラスの大物から、BicepやPeggy Gouといった旬なDJたちがラインナップに名を連ねている。Jamie XXは8時間以上LONG SET DJをしていた。僕はNYとロンドンのアンダーグラウンドをモチーフにしたBLOCK9がお気に入りで、最終日はここでKevin SaundersonとMASTERS AT WORKがDJをしていた。

ロンドンとNYのアンダーグラウンドをモチーフとしたエリア BLOCK9
ロンドンとNYのアンダーグラウンドをモチーフとしたエリア BLOCK9

金曜日。メインのステージでのパフォーマンスが始まる。最も大きいピラミッドステージにはじめに登場するのはHACIENDA CLASSICALだ。HACIENDAとはマンチェスターにあった音楽レーベルであり、ロックとダンスミュージックを融合した名曲を多くリリースしている。ハウス・ミュージックの名曲の数々をオーケストラが奏でている。普段はレコードで聞いているクラブのクラシックをオーケストラで、それも野外の大音量で聴いたのは初めてである。圧巻だ。

ハッピーマンデーズのべズがハートのハングサインを作り、数万人のオーディエンスがそれに応える。5月に起きたアリアナ・グランデのマンチェスター公演でのテロでは多くの尊い命が犠牲となった。そしてロンドンブリッジでもテロが起きた。ライブ前にはテロ被害者へ対しての黙祷が行われた。HACIENDA CLASSICALがブッキングされたことは偶然だと思う。マンチェスターの音楽にはポジティブなものが多い。マンチェスターで産まれたパーティアンセムが、フェスティバルの開催を告げていた。

Brexitが決定した国民投票は、昨年のグラストンベリー・フェスティバル当日のことだ。その後、アメリカではドナルド・トランプが大統領に就任した。多くのアーティスト達はそれらについて声を挙げたが敗れ、テロの脅威は未だ続いている。グラストンベリー・フェスティバルでは多くの社会活動家や政治家が演説を行っており、ディベート専門エリアもある。社会情勢を風刺したアートワークもいたるところにあった。オーディエンスたちは政治について自分ごととして捉えている。自分たちが暮らしている社会について考えていない人間の方がおかしい。フェスティバルはメッセージを発信するエネルギーに満ちている場所なのだ。

「This is a best festival in the world」と、オリヴァーが言った

グラストンベリー・フェスティバルに出演するバンドは、音楽ファンにとっては堪らないラインナップである。金曜日だけでもRADIOHEAD、THE XX、MAJOR LAZER、LORDE、CLEAN BANDIT、THE FLAMING LIPS、DIZZEE RASCALなどが出演する。過去、タイムテーブルを眺めてこんなに迷うことがあっただろうか。

アーティストに支払われる出演料は他のフェスに比べて少ないらしい。主催者も発言しているのでおそらく事実なのだろう。しかしグラストンベリーに出演することでストリーミングサービスでの再生回数が増えたり、単独ライブの集客数が増えたりなど充分なメリットがあると言われている。そして何よりグラストンベリー・フェスティバルに出演するということは、アーティストにとって最高の名誉なのである。

ピラミッドステージは広く、芝生が気持ちよい
ピラミッドステージは広く、芝生が気持ちよい

ピラミッドステージでROYAL BLOODを観たあと、上野がヘッドライナーのRADIOHEADを最前線で観るために待つと言うので別れた。RADIOHEADまではあと3時間もある。とても無理だ。セカンド・ヘッドライナーのTHE XXを待っているあいだに可愛い女の子二人組と親しくなった。彼女たちに友人が最前列まで観に行ったことを伝えると、「この子は去年COLDPLAYを最前列で見たくて、おしっこを漏らしたの」と言い、笑いだした。

THE XXは個人的に今回一番楽しみだったバンド。ライブは19:30からスタートしたが夏至のイングランドは陽がながくまだ明るい。THE XXの3人は黒いルイ・ヴィトンのスーツで揃え、一曲目は ”Intro” だった。ジェイミーがAKAI MPCとPioneerのCDJのあいだを行ったり来たりしている。両方とも日本のブランドである。

『I See You』はとても美しいアルバルで、2017年を象徴する名盤だと思う。このタイミングでTHE XXを観れたことには感謝しかない。ミニマルで美しいメロディを得意としていた彼らがダンスミュージックへと接近した結果、フェスティバルで10万人を踊らせることができるバンドへと成長した。特に ”Loud Places”から”On Hold”への展開は途中アシッドハウスへと変貌し、オーディエンスを驚かせた。

オリヴァーが「This is a best festival in the world」と言うと、女子たちからの黄色い声が響く。イングランドのガールズにとってオリバーはアイドル。イケメンに夢中になるのは日本でもイングランドでも女子の世界では共通である。かつてはビートルズがそうだったという。何をもって世界最高のフェスというか個人の価値観によって変わるだろう。ここにいる多くの人はグラストンベリー・フェスティバルが世界最高のフェスだと信じている。オリヴァーのこの台詞はとても印象的だった。

グラストンベリー・フェスティバルで、RADIOHEADを観た。

RADIOHEADのまで少し時間があったので、ここ数年のUKチャートを沸かしているCREAN BANDITを観にいった。日本でも”Rather be”がヒットしたのは記憶に新しい。イングランドはポップミュージックの国だ。ポップミュージックの国民は歌うことが大好きである。全曲大合唱のカラオケ大会となっていた。まるで忘年会2次回のように老若男女が分け隔てなく歌っている光景を見て、日本人の僕はとても羨ましく思う。

初日のヘッドライナーはRADIOHEADである。RADIOHEADは僕らの世代にとって特別なバンドだ。高校生の頃、なんとなく街の雑踏から離れていたくなるときがあって、そんな時はヘッドフォンで『OK COMPUTER』を聴いていた。そうするといつも見ている学校からの帰り道の風景が、まるで映画のワンシーンのように感じることがある。ふと、そんなことを思い出した。

『OK COMPUTER』のリリースからちょうど20年。それを記念したセットリストを予定しているのでは?と噂があったが彼らは普段のライブと同じように、最新曲である ”Daydreaming ”からライブは始まった。

RADIOHEADの人気が凄まじく10万人収容できるピラミッドステージでも混雑しており、まるで出勤時の山手線のように身動きがとれない。なんとか体制を確保しステージに目を向けると、オーディエンスが持つ様々な柄のフラッグが風になびいて揺れていた。YouTUBEの中で何度もみた景色が、目の前に広がっていた。トム・ヨークは天使のような声で歌っている。

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夕暮れ時に始まったライブは夜になるにつれ徐々に暗くなっていく。アンコールの1曲目にとても優しいギターの音色が響いた。”No Surprises” だ。目の前でカップルが1曲終わる事にキスをしている。フェスティバルのヘッドライナーは特別な時間。この時間を大切な人と共有できること以上の幸せは他にそうないだろう。

近くに30代くらいのイングランド人グループがいて、ライブ中にずっと歌っており少し五月蝿かった。彼らは十年来の友人という感じで、酔っ払ってふざけながら大声で歌っていた。”CREEP”のイントロが聞こえたとき急に静かになり、グループ内のひとりの男が指で十字を切り祈り始めた。良く見たら肩を震わして泣いていて、そのあとそいつらみんな泣き出して、肩を組んで歌い始めた。

音楽は記憶は結びついていて、特定の曲を聴くとその曲にまつわる記憶が蘇ることがあるとはよく言われている。彼らの中にある”CREEP” にまつわる記憶がそうさせたのかもしれない。それは友人や家族、恋人との思い出かもしれないし、なにか辛い記憶かもしれない。この場にいる10万人ひとりひとりにも、そんな記憶があるかも知れない。

ジョニー・グリーンウッドはギターをかき鳴らしていた。

Masayuki Takahashi

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1983年 埼玉県出身 のライター、編集者、DJ。サラリーマンとして勤務しながら、音楽、映画を中心にフリーライターとして活動中。DJ PIECEとして TOKYO HOUSE AND DISCO PARTY sheep にてレジデンスを務める。
http://sheep.tokyo