政治を動かすには文化の発展が重要!東浩紀と佐々木俊尚が語る「社会をリメイクする!」

五反田駅近くのトークセッションの場、<ゲンロンカフェ>で行われた、ジャーナリストの佐々木俊尚さんと思想家の東浩紀さんの対談。「ウェブで政治は動かせるのか?」というテーマで始まったセッションは、次第に変化し、最終的な論点は「社会変革をどう達成したらよいか?」に発展していった。微妙に互いの主張に差が見られ、4時間近くに及んだアツイ議論と到達した結論とは!?

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 今年の夏、佐々木さんと東さんは偶然にも似たテーマでそれぞれ新刊を出した。佐々木さんは『自分でつくるセーフティネット』、東さんは『弱いつながり』というタイトルで、どちらも「今後の社会を生きる上で、どう価値ある情報を得ていくのか?」ということを指南している書だ。

 佐々木さんの本がSNS等の広い人間的なつながりの中で、日常付き合っている間柄以外のところから有益な情報が降ってくる可能性が高いことを示唆しているのに対し、東さんの本では、時にはインターネットの世界から自分の身を強制的に切り離し、偶然性の高い出会いや発見の多い旅に出ることで新たな視点が得られると論じている。

どちらも関係性の遠さや偶然性の高さといった、弱いつながりから新鮮な価値観が得られることを意味するが、異なっている点は、佐々木さんが「他者からどう得るか」を表現しているのに対し、東さんは「どう個人で見つけるか」を指し示している、という印象だった。

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 さて、実際の対談だが、冒頭は「朝日新聞の誤報問題」から始まり、政治の支持母体としての都市と地方の差異、また新たな価値観を持って政治に参入してきた若者の評価などに移っていった。

 そこで論じられた佐々木さんの意見は、「今、かつてのリベラル左翼の勢力が急速に落ちてきていて、かといって現在の安部政権と極右に政治を任せられない。地方を含めて新たな価値観や新しい政治的な手法を持って動き出した人たちをどう強くしていくか」という内容。

それに対して東さんは「今の政権や極右の動きは、国際社会からどう見られているかの視点が欠けていて、非常に怖い。ただ、新たに政治に参入してきた若い人は、一貫性が欠けていて信用できない。まずはグローバルな視点を持った都市文化を発展させること」と返す。

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 次に社会的包摂についての議論。

地方に移って農業をやりながら、東京のウェブデザインなどの仕事をこなすような、新しい価値観を持った人たちが増えている。所得を減らしつつもそんな生活ができるのは、ある意味、優秀な人たち。でもそこに到達できない低所得者層の人たちをどうカバーしていくかという社会的包摂の課題がある。僕は、エリートの人たちが上から目線と言われても社会的包摂をあえてやるという、『ノブレス・オブリージュ』を真面目に考える時代に来ているんじゃないかと思っている」と佐々木さん。

「僕も心の中では最近そういう雰囲気になってきているんです」と東さん。続いて、政治と大衆の関係性のあるべき一つの形として「政治家は足元(有権者)を見ないといけないわけですよ。『弱いつながり』で言うと、村人を見ないといけない。村に観光客がいっぱい来てくれれば有難いし、意見を言ってくれるのも有難いけど、その意見に左右される必要もない。そのバランスが重要」と論じ、行政の在り方として観光客的な意見の受け皿となるような「第三の領域が必要」と強調する。

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 ヘイトスピーチのデモや嫌韓本、嫌中本の氾濫といった問題についても。

 東さんは、「最近僕は、ヘイトスピーチの動きを見ていて、意見を変えました。市場に任せていればなんとかなるっていう、自己チェック機能は働かない、と。一般的には言論の自由がある、でも個別では『これは駄目』みたいな反応が社会には必要。そういう中で、『なんで俺、これを駄目だと思ったんだろう?』って自分の中の捉え返しの中から正義の感覚とか、誠実の感覚って生まれてくるわけで」と話す。

 佐々木さんは、「ネットに限らず、メディア空間っていうのは、最終的に全員が当事者として巻き込まれてしまう。だから上から目線で批判すると、『お前上から目線で言ってるじゃないか』って批判される、その巻き込まれる当事者性がすごく重要だと思っていて。それが、ヘイトスピーチとか、そういうものに対する、ある種のカウンターの理念になりうるんじゃないのかな」と補足する。

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 最終的な着地点として出てきたテーマは「社会の変革」について。

 まず、佐々木さんからは、「感情の話ってとてもすごい大事で。結局、理念だけでも人は動かない。かといって、アジテーションとか煽動とかで動かすのでは決してなく、僕はそこが文化なんじゃないかってすごく思うんです。シンプルでミニマルな生活、多様性を大事にする社会という、いわゆるリベラルな政治勢力のベースになるような文化的ムーブメントって、僕は日本で育ってきていると思うし、それを実現したい。

障がい者を助ける、健全な食事をする、持ち物を減らしてシンプルな生活をするとか、実は全て繋がっているんじゃないかって仮設を立てているんです。実際それをやっている若者がたくさんいる。ただ彼らはまだ漠然とし過ぎているので、僕はそこをちゃんと見えるようにし、言語を与えていく、そういう仕事をしていきたい」と。

 そして東さん。「僕は社会って、ある種のエリートがいないと駄目だと、率直に言って思ってます。(階級とか学歴に関係しない)この社会における本当の選良をどう集めるのかってことを、真剣に考えているところがあって。その時に、SNSのフォロワーが多いっていうのも僕はあんまり信じていないわけ。また、この国の言論っていうのが、国内のことばっかり考えているのが、僕はすごい危機感を持っていて。

だから、一方では言論を愛してくれる人たちの連鎖みたいなものを作りたいし、他方では国外の言論空間のパイプも作っていきたいなって思っている。そういうことができた後に、おそらく政治的なことができるんだろうって感じですね」と締めくくった。

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 端的に要約するとこのような対談だったが、実際はさまざまなテーマに飛び、言葉の火花が散る、凄まじいセッションだった。ここで感じたのは、東さんが「個人主義的、都会的感覚が好き」と言い切っていたのに対し、佐々木さんは「ヒッピーコミューンで農業をやって、半分東京で生活するというような、二軸生活をしている人も応援している」と口にしていたように、多少の触れ幅はあるが、都市と地方、個人と他者という立ち位置の差が興味深かった。

 でも同時に2人が共通しているのは、「社会や政治を動かすには文化の発展が重要」ということ。

 僕らは、さまざまなヒントを得て、この社会をリメイクしていく。こんな時代だからこそ、オルタナティブな考えが必要なんだろう。

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東浩紀
1971年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。著書は『弱いつながり』(幻冬舍)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『一般意志2.0』(講談社)など多数。
http://genron.co.jp
佐々木俊尚
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て、フリージャーナリストとしてIT、メディア分野を中心に執筆。
著書は『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)、『レイヤー化する社会』(NHK出版)、『「当事者」の時代』(光文社)、『キュレーションの時代』(筑摩書房)など多数。
http://pressa.jugem.jp

写真:須古恵