ダイジェスト版テキスト|「今、フェスができること、音楽ができること VOL.3〜音楽ライブのコロナ対策をバージョンアップ!〜」ハイライトレポート

第3回目となる今回は、京都大学教授 藤井聡さん、ウイルス専門家 宮沢孝幸さんと共に、ライブハウスの現場からコロナ禍の中で発信を続ける、LIVE HAUS/SaveOurSpaceのスガナミユウさん、「現場へ!ライブハウスよ!」を連載中の朝日新聞編集委員の近藤康太郎さんを招き、ライブハウスやフェスシーンなどエンタメ界で求められる対策をアカデミックな切り口からも検証する機会となりました。

これまでも当イベントにも登壇してきたFestival Life編集長 津田昌太朗さんやジャーナリストの佐々木俊尚さんも参加していただき、2部構成で、フェスとライブの復活へ、率直かつリアルな対話が繰り広げられました。各登壇者のコメントをハイライトでご紹介します。

登壇者

藤井聡(京都大学大学院工学研究科教授/表現者クライテリオン編集長)
宮沢孝幸(京都大学ウイルス・再生医科研究所准教授)※ZOOM参加
スガナミユウ(LIVE HAUS/SaveOurSpace/GORO GOLO)
近藤康太郎(朝日新聞記者/編集委員)
津田昌太朗(Festival Life編集長)
佐々木俊尚(ジャーナリスト)
〈ファシリテータ〉
南兵衛@鈴木幸一(アースガーデン主宰/「#ライブフォレスト」「ハイライフ八ヶ岳」主催者)

Session1「コロナから日常を取り戻せ!〜ライブハウス&医療編〜」

宮沢孝幸(敬称略、以下同)
コロナウイルスとインフルエンザはどちらの方が、感染力が強いか、というアンケートをとったところ、コロナウイルスと答えた人が多かったが、実際はインフルエンザの方が100倍強い。コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染がメインだと思っている。ライブハウスでも換気ができるところはかなり安全。また、ライブハウスでは静かにしている、喋っていてもマスクをしているのであれば、リスクは低いと考える。

藤井聡
京都大学で社会工学を専攻にしており、「リスクとどのようにうまくやっていくか」というリスクマネジメントの研究をしている。例えば車の運転も危険はあるが、安全運転をしつつリスクを包括しながら生活している。インフルエンザも同様。ところがコロナについてはこれが成立していない。どこかで「リスクアクセプタンス」を成立させないといけない。コロナによる一番の被害は電車とバス、その次はライブハウスであり、目の敵にされてきた。行政の作ったライブハウスのガイドラインは改定が必要と考える。

スガナミユウ
自身が運営するライブハウスでは、バンド毎に転換の時間があるが、その間に換気をしている。またエアロシールドという紫外線でウイルス死滅させる対策をしており、現場でも色々手探りで対応している。
緊急事態宣言があって、6月に自粛要請が解除されたが、そこから地獄だった。アーティストはお客さんの感染を恐れて、公演を自粛した。大事なのはムードの緩和。屋内でのイベントが難しいので、屋外のスペースを借りて定期的にイベントをしているが、それでも人が集まっているというだけでクレームが来る状況。このムードを打開しないといけない。これはちゃんと行政が最初に「新型コロナウイルスの感染はゼロにはならない。感染したことで差別などが起こらないようにしよう」という方向になる政策をしなくてはいけない。

近藤康太郎
渋谷で生まれ育ち周辺のライブハウスには通い続けてきた経緯があり、ライブハウスのファンと自負している。ライブハウス第一線では働いている人に対して失礼かもしれないが、もともとそんなに集客ができておらず、密になっていないが名ライブも多くあった。そもそもライブハウスはそんなに客入っていたか?という話もある。今は東京ではなく大分県日田市に住んでおり、古民家を買ったので、ここでライブをやろうと計画している。ライブハウスはビジネスとして成立していなくても文化の創生と位置付けることもできる。

Session2「ウィズコロナで模索するコミュニティのあり方〜フェス&社会編〜」

佐々木俊尚
コロナウイルスが出現し、今後どのくらい我々は行動変容が求められるのか。藤井先生の提唱する半自粛にあるように、大声を出さないなどの行動様式が基本となると考える。例えば、奥渋エリアには小規模で心地よいお店が多いが、現在そこには家族や友人同志など、少人数で来店している姿が見受けられる。スタートアップの界隈でもあった傾向だが、2011年以降、小規模でも良い状況を持続したいという欲求を持つ人が増えた。フェスにおいても、今後は「ウェーイ」と騒ぐのではなく、より内省的なものに変化するのでは。
世間の空気として、今回の緊急事態宣言からGO TOに至るまで行政判断を仰いだ上で、気持ちよくディスりたいという傾向がある。ここに我々の当事者性がない。今こそコロナという問題において市民社会としての当事者性を復活させるべき。震災以降の10年、良い方向にマインドセットされていることも多くある。2030年くらいにひょっとしたら「コロナ禍を境に変わったな」、と語られるようになるかもしれないことを、期待している。

津田昌太朗
基本的にはコロナ以前の状況には戻らないのではないと想定するフェスオーガナイザーもいて、車中や車の横で音楽を楽しむ「ドライブインフェス」やソーシャルディスタンスに配慮し、ステージ前に距離をとって椅子を設置した「#ライブフォレストフェス」など、新しい形式が生まれている。

社会が変わるときにフェスも変わるというのを3.11東日本大震災で実感したが、2011年には多くのフェスがなくなる一方で震災を受けて新しく生まれたフェスもあった。より地域と密接に関わるようなローカルなフェスもいろんな場所でスタートし、そういったフェスは1000人規模のものも多いが、それを生きがいとしている地域や人がいる。あるフェスオーガナイザーは都心ではなく、自分の地元でフェスを開催し、コミュニティでの新しい暮らし方、楽しみ方を見出しており、地元の”お祭り”的な存在としてフェスが機能しているケースも増えてきている。

国内外のフェスの状況を見ている中で、懸念していることとしては、グラストンベリー・フェスティバルをはじめとした大規模なフェスが2021年に公演を行わなければ破綻してしまうというような声明を出していること。もちろん表に出していないだけでそういった状況のフェスは規模を問わず数多くある。フェスがなくなってから気づいてもこの文化は帰ってこない。続けていくためには何をしなければいけないのか、を考えることが大事。

藤井聡
コロナウイルスと他のウイルスを、死亡率などちゃんと比較しなくてはいけない。コロナに対してだけ過剰なリスクをうたっていて、コロナが逆エコ贔屓されている状況。トータルでの公衆衛生の最大化を目指すべきで、このままでは文化の崩壊につながる。
コロナの状況がこれからどれだけ続くかわからないし、コロナに感染しちゃ絶対ダメ、音楽や文化などの不要不急のものはダメ、という話になっているが、これはポリティカル・コレクトネスに値する。建前と本音でどのようにバランスを取るかが重要だが、今の世の中は自粛ムードが強すぎる。現在、自分は緩和派になっているが、これがもし世の中で緩和がいきすぎたら一瞬で自粛派になる。感染リスクが低い時は普通の生活を、高い時は自粛を。
コロナウイルスのリスクがちゃんと認識されれば、ほぼライブハウスは元に戻る。パンデミックのような傾向が出てきたときに、宴会のような自粛は必要となるが、ライブハウスの(自粛)優先順位は低くて問題ない。自粛というのは政府ではなく、自分たちがしていること。やる気があればほぼライブもフェスもできる。

宮沢孝幸
なぜみんなが(コロナに対して)そんな悲観的なのだろうかと思う。「アフターコロナ」という言葉が大嫌いで、この程度のウイルスで変わってたまるかという想い。これ以上怖いウイルスが今後生まれるかもしれないが、インフルについて、人がバタバタ死ぬようなウイルスは出てこない。今回のコロナの影響で、ライブハウスは一時的に変わるがいずれ元に戻る。未来永劫大きな声が出せないということはない。
アフターコロナなどTVで報道されているが、半年も過ぎれば人々は忘れ去り、残るのは経済不況のみ。来年の春ごろにはウイルスは終息しないものの、世の中はリスク(の低さ)を正しく理解すると、同時にものすごい(悪い)経済指標が出てきて、その副作用の甚大さに気づくだろう。経済の復活は10年かかる。

スガナミユウ
緊急事態宣言があって、自粛要請があってから本当に何も変わってない。対策を取れば、マスクなんて必要がないと言われたり、自粛警察が出てきたり、都の22時以降の休業要請が出されたり、ライブハウスを営業していれば電話やメールが来たりと、どちらに振れても何かしら叩かれる。メディアの報道の仕方や、行政の条例で、みんなが右往左往しており、このムードは自分たちだけでは変えられない。#SaveOurSpaceではライブハウスなどでの実態調査を行っており、また結果は記者会見を行う予定。有識者の方々には、これからも音楽文化復活のために力を貸して欲しい。

ダイジェスト版テキスト「今、フェスができること、音楽ができることVol.2−動き始めた限定集客ライブと模索を続けるライブハウスの未来−」

ダイジェスト版テキスト|今、フェスができること、音楽ができることVol.1 夏フェス早期回復のための作戦会議