グラストンベリー・フェスティバル体験記3|賛美歌の聴こえる丘の上で、グラデーションの空を見た

世界中の音楽フェスティバルのモデルとなった、イギリス ワージーファームで開催されているグラストンベリー・フェスティバル。見た事、感じたことをそのまま伝える体験記連載第3回。

index

グラストンベリーフェスティバル体験記1

グラストンベリー・フェスティバル体験記2

グラストンベリー・フェスティバル体験記3

グラストンベリー・フェスティバル 2017 最終日のヘッドライナーは Ed Sheeran。


BBC編集によるGlastonbury 2017 Aftermovie

世界中でシングル・アルバムが大ヒットし、Justin BieberやOne Direction、Taylor Swiftなどへの提供した楽曲もチャートの上位にいる。POP MUSICはいま、Ed Sheeranの時代だ。チェックシャツにデニムという格好で、定刻通りに現れた。ステージに巨大なディスプレイこそあるが、機材はアコースティック・ギターと足元にループ・ペダルがあるだけ。バックバンドはいない。15歳の誕生日にループ・ペダルと出会った少年は、その10年後に英国最大のステージに立つまでになった。2017年グラストンベリー・フェスティバル 最終日のヘッドライナーは、Ed Sheeran。

#Sheeran Sheepとは?
#Sheeran Sheepとは?

1年でもっとも陽が落ちるのが遅い夏至の夜。1曲目の ”CASTLE ON THE HILL” は歌詞にBEAUTIFUL SUNSETとあるように、夕焼けのオレンジ色がどんな演出よりもひきたたせてくれる。 ただこころなしか声が少し震えているように感じた。26歳の少年がたったひとりでグラストンベリー・フェスティバルの大トリを務めているのだから、無理もないのかもしれない。それもそのはず、グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーは目の前にいる10万人のオーディエンスだけではなく、イギリス国営放送であるBBCでも中継がある。イギリス中からそのパフォーマンスを観られているのだ。

陽も落ちて暗くなってきた。3曲目の” The A Team ” ではオーディエンスが携帯電話のライトをステージにかかげた。この頃には声の震えは消え、白い光の海に心地よい歌が響いていた。イギリスの人たちはとにかく歌う。叫ぶ。「おおお おーおおお おおお!」と叫ぶ”sing”では、 360度の角度から音が聞こえるという初めての体験をした。


“photografy” のMVはまさに本人が産まれてからグラストンベリーに出演するまでのphotografyが記されている。

近くにいるグループたちは記念撮影をしてる。聴覚と記憶は密接な関係にあるという。いま写真をとっている彼らも何年か後に写真を見た時に、この曲とともにこの体験を思い出すのだろう。僕は後述する理由でカメラを無くしてしまったので、グラストンベリー・フェスティバルの写真がほぼない。この記事に掲載されている写真はかろうじてSNSやクラウドに残っていたものと、上野が撮影したものである。

BARでナンパした女の子に、「君の身体を愛している」というセリフを何度もくりかえすのが、2017年最大のヒット曲である ”shape of you” の歌詞である。 印象的なフレーズのループをサンプラーで叩いた瞬間に空気が変わる。あぁ、今年のグラストンベリーのハイライトはここだなと感じる瞬間。夜なのにサングラスをしたギャング風のお兄ちゃん達も、ホットパンツを履いたブロンドの女の子たちも、肩組んで歌ってるティーン・エイジャーのグループもみんな、「君のその身体が好きなんだ」と歌ってた。俺も歌った。

Ed Sheeranは極上のPOPSで2017年のグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーを務めた。オーディエンスの誰もが最後の一音が消えるまで移動することなく、スタンディングオペーションを行っており、そこにはアーティストに対するリスペクトがあった。今年予定されていた日本ツアーは事故のため残念ながら延期となってしまったが、次回来日公演のチャンスがあれば早めのチケットの確保をお勧めする。

フェスティバルのエンディングは、ハッピーなディスコがいい。

良すぎるLIVEを観た後はそのまま余韻に浸っていたいから、その後に下手なライブを観たくない時がある。Ed Sheeranがまさにそうで、もうこのまま帰ってもいいかなと思った。 そう、この後にMasters At Workがラインナップされていなければ。

s_26061172_1630051690389248_1096003582_o

フェスティバルはサウンドトラックが素晴らしいロードムービーのようだと思う。今年のグラストンベリー・フェスティバルがロードムービーだとしたら、エンディングテーマがMasters At Workなんてハッピーエンドに決まっている。FUJI ROCKも最終日のレッドマーキーはDISCOのDJで終わる事が多い。フェスティバルはハッピーエンドで終わりたい。

NYC DOWNLOWはちょうど10周年のアニバーサリーイヤー。フェスティバルの終演と相まって多幸感で満たされていた。フロアはドラァグクイーンとHOUSE LOVERたちの熱気で凄まじい。アンダーグラウンドな匂いは都市のウェアハウスに作られたクラブとなんら違いはない。

Kevin SaundersonがMasters At Workの “It’s Alright,I Feel It!” をPLAYするという粋なはからいをしているなか、同時刻に隣のフロアでは本人たちがガラージュアンセムを派手なイコライジングで煽りに煽っている。ここにいる全員が笑顔で踊っていた。ジン・トニックが水みたいに飲める。 ”I Feel Love” のベースラインが聴こえたとき、今まで真面目に生きてきたから神様がご褒美をくれたんだろうなと思った。

s_26037970_1630051670389250_595568801_o

そばかすのある女の子が俺の手を握って、一緒に踊りましょうと誘ってくるイベントが発生した。アメリカの映画によくある上手に踊れない男子高校生と、それをリードするヒロインみたいな感じになった。素晴らしい曲をかけてくれるケニー・ドープとルイ・ベガに感謝。エマだったかジェリだったかメアリーだったか名前を忘れちゃったけど、一緒に踊ってくれた女の子ありがとう。グラストンベリー・フェスティバルの全てに感謝。次に来るまでにダンスの練習をしようと誓った。

グラデーションの空の下に、グラストンベリー・フェスティバルのすべてがあった。

いつのまにかひとりふたりとフロアから出て行ていく。もうそろそろ夜も明ける。日付上は月曜日であり、本格的にフェスティバルの終わりの雰囲気が感じられる時間だ。身体は疲れ果てているがぼくらは朝霧のなか、小高い丘にあり唯一音楽のないステージであるストーン・サークルへと向かった。何度も観たグラストンベリー・フェスティバルのDVDに、最終日の朝はサンライズを観て過ごすというシーンがある。最終日の朝はサンライズを観ると決めていた。

途中でチャイを買った。ショットグラス大の器に生姜がたっぷり入った熱いチャイだった。くっと飲み干すと身体のなかにエネルギーが沁みているのがわかる。限界だった身体がほんの少し楽になった。まさに体力回復アイテムである。

ストーン・サークルは円環上に巨大な石が直立している、ストーン・ヘンジに似たホーリー・プレイス。それもそのはずで、ストーン・ヘンジはグラストンベリーから40kmしか離れていない。建てられた目的はよくわかってなく、太陽観測のために作られたという説が有力らしい。もしかしたら古代人もサンライズが綺麗な丘にあつまって、夜通しフェスティバルをしていたのかもしれない。そんなことを考えながら歩いていたら、ストーン・サークルへたどり着いた。

数人ずつが輪になってトーチの灯りを囲み、芝生に座っている。巨石によりそっている人もいる。どこか遠くの方でアコースティック・ギターと賛美歌が鳴っている。赤いローブを来た集団が祈りを捧げている横で、ヒッピーのおじいさんがマリファナを吸っている。恋人たちが寄り添って寒さをしのいでおり、迷い込んだ犬にパンをあげていた。僕はブランケットに包まれながら、太陽が昇っていくのをただ眺めていた。

ターコイズブルーの空に、ピンクとイエロー、オレンジの今日が混ざる。ところどころにある雲は薄いグレーで、白いカモメがゆっくり空を飛んでいた。グラデーションの空の下にはそれまで5日間すごしてきたフェスティバルの全てがあった。どこか現実感がなく、まるで一枚の風景画のような、そんな景色だった。賛美歌の聴こえる丘の上で観たグラデーションの空の色を、僕は一生忘れない。

グラストンベリー・フェスティバルは牧場保護のため5年に一度開催しない。2018年はその開催しない年に当たる。存続するのかわからないし、名前と場所が変わってしまうのではという噂もある。チケットがとれるかどうかは運次第で、雨が多いグラストンベリーではサンライズが観れる保証もない。それでもこの記事を読んでいるあなたがグラストンベリー・フェスティバルにいつか行くことがあったのなら、最終日の朝にストーン・サークルでサンライズを見てほしいと思います。

テントへ戻り泥のように眠った。昼すぎに起きたらデジカメがなくなっていた。グラストンベリー・フェスティバル最高!!

s_26038240_1630051710389246_1347719749_o

index

グラストンベリーフェスティバル体験記1

グラストンベリー・フェスティバル体験記2

グラストンベリー・フェスティバル体験記3

Masayuki Takahashi

20476521_1490894557638296_8587649100990396454_n

1983年 埼玉県出身 のライター、編集者、DJ。サラリーマンとして勤務しながら、音楽、映画を中心にフリーライターとして活動中。DJ PIECEとして TOKYO HOUSE AND DISCO PARTY sheep にてレジデンスを務める。
http://sheep.tokyo

参考記事
http://www.huffingtonpost.jp/2017/05/25/oasis_n_16801838.html