仲間がいることで自由になれる。MAHO KATOが語る「Sipilica」の10年とこれから

アースガーデンやたくさんのフェスティバルのマーケットで常にお客さんの絶えない存在「Sipilica(シピリカ)」。シルバーを中心としてナチュラルな素材を用い、自然との調和にまつわるメッセージも込められた繊細なデザインは女性を中心に人気を博している。2005年のアースデイ以降、アースガーデンにも出店を続ける「Sipilica」は、今年でブランドスタートから10周年。3月には会社組織としてのスタートをきった。これまで通りデザイナー、クリエイターであることはもちろん、会社になったことで“代表取締役”としての役割も担うことになったMAHOさんにお話を伺うべく、中目黒のアトリエを訪ねた。

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アトリエの中は作業スペースもオープンになっている。
アトリエは、展示スペースと作業スペースがひとつのフロアになっている。

以前の町田からこの中目黒の静かなエリアへアトリエを移して、いま3年半ほど。もの作りの空間であるアトリエへも人々が来られるように開放していったことで、段々とMAHOさんのなかでも変化が起きてきているようだ。

MAHOさん「「Sipilicaは、一番最初は本当にひとりきりで始めたこと。今もデザインは変わらず私ひとりでやっているけれど、こうやってアトリエも良い場所に出会えて、多くの制作工程や事務作業を手伝ってくれている仲間に恵まれて、この場所でつくり、お届けできるようになりました。アトリエを開放したことで、こうして一緒に作っている人の雰囲気もわかっていただきやすくなったのも嬉しいことです。

今までは自分自身がこのジュエリーひとつひとつを作りきることで精一杯で、そのもの自体を、さらにその先に伝えるということについてはちょっとおろそかになっているところがあったのかもと思います。

でもSipilicaのお客さまは、じつはたくさんのことを受け止めてくださっていてさらにいろいろと知りたいと思ってくださっていたりして、じゃあもっと“伝える”ということをちゃんとやろうよ、と初めて、カタログを作ってみることにしたんです。今年初めて作ったこのカタログはこれまでに長く作ってきたSipilicaのベーシックコレクションを集めたもの。自分がこの先10年経ってもきっと作っているだろうなと思えるものをまとめました。」

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10年を迎え、会社としてのスタートと同時にSipilicaが初めてチャレンジしたことがある。それは紙の本でのカタログ制作だ。これまでのベーシックコレクションをカタログにするという試みにより、MAHOさん自身でも整理できたことが多くあり、お客さまからの要望にも応えられている実感が出てきたそう。そして、もうひとつの大きな変化ともいえるのが現在人気のSipilicaのマリッジリング制作だ。

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MAHOさん「お客様から『マリッジリングを作ってもらうことはできますか?』と聞いていただいたことが最初のきっかけでした。技術的にはできるのでお受けするんだけど、本当にフルオーダーで制作していて。そうしていくうちに、段々とリクエストが増えてきたので、フルオーダー、セミオーダー、ベーシック というように整理をして、いまは『Sipilica icoro BRIDAL』 というラインをスタートしたんです。

これまではこちらから伝えてなかったから勇気を持って尋ねてくれた人だけが作れる、っていう状態で(笑)。こちらから『作れますよ』って伝えるところにまで気が回せていなかったんだけれど、これも、制作のコアな部分を自分がやるために支えてくれる仲間と仕事を分担する、ということが可能になったからこそできることだと思うんです。また、今後はリングの制作と同時にブライダルは会場装飾なども含めて少しずつやってみたいですね。葉山でお菓子作りをしている『RainbowCaravan』さんに、私がデザインしたシュガークラフトのウエディングケーキをつくっていただいて、オーダーいただければお届けできるような形にもしようと。」

Sipilicaとは別のラインで、もうひとつ、『MAHO KATO』という個人名義の一点モノの制作もスタートされている、MAHOさん。そこにラインナップされるのはターコイズなどの天然石にあわせた一点ものでまったく量産できない、金工作品ともいうべきものたちだ。

「MAHO KATO」として、初の個展も開催。開催情報は文末にて。
「MAHO KATO」として、初の個展も開催。開催情報は文末にて。

MAHOさん「『MAHO KATO』として並ぶものは金属で絵を描いているような状態で、ある意味、大学の頃に制作していたものにも近いと思う。アクセサリーですらない、飾ってもらうための絵画のような作品もあって。これも今だからこそできるようになったこと。けれど一方では原点回帰ともいえるはず。今までいろんなことをやってきて、まあある種の量産的なことというか …とはいえ、このアトリエで作る範囲での“量産”だから、かなりの家内制手工業的なものだけれど(笑)。いっぱい作り、たくさんの人へお届けしてきたなかで、仲間ができ、会社ができたことで、逆に自由にできることもさらに増えてきている、と感じています。」

いくつかの流れが自然発生的にこの10年のうちに生まれてきたことで、それを束ねる原点ともいえる『Sipilica』が会社になる。これはとても自然なことだったのだろう。MAHOさんはデザイナーとして、今後も人と繋がりながら、コラボレーションし、作品を生み出したいと考えているそうだ。

MAHOさん「フルオーダーのマリッジリングなんかは、ある意味お客さんとコラボレーションしながら作っている気分でもあるんです。もちろんデザイン自体は私がして、お客さんと話をしながらやっていくのだけど。お客さまの思い出の話として、たとえばふたりが一緒に山に登った風景を思い起こせるようなものを、と織り込んだり。ひとりでつくっていたら出てこなかったものでもお客さまの思い出やエピソードがあったからこそ、私を介して作れたものなので。そういう意味ではお客さんとの“コラボ”かな。“何かを作ること”が、私にとっての与えられた生業。そのためにできることはある意味柔軟にやっていきたいな、と思います。」

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MAHOさん、そしてSipilicaのお話を伺っていると、「10周年だからきっかけに何かをやろう!」という意気込みよりは、すべてが年数とともに積み重ねられ、自然な流れとして大きくなっている、という印象を受ける。

MAHOさん「流れや変化は自然に起きてくるものだなあといつも思っていて。まったく人がコントロールできないような変化もいっぱいある。でもそのなかで自分がなんとなく進みたい方向はみんな見えていて…。船にたとえるなら、エンジンをガッとかけスクリューを回しどんな荒波も越えていけるような進み方もある。けれど、私個人のイメージ的には帆船のように、そのときの風や波の流れを受け、自分の“こっちかな”という方向に進んでいくような。

でも、きっと自分だって20代の頃のものづくりの仕方はもっとエゴイスティックな部分もあったような気がするし、“この社会が”と憤ってみたり、これを変えてやろうとか思っていたりした。そういう怒りともいえるものって若い頃は大切だったけれど。いまは、“あるべきようにあり、なすべきことをなせますように”ということを祈り…というか、心のなかで思っているのね。それは主体性が無いということではなく、形で表現していくということというか。文章であっても、事務的な仕事でも肉体労働であっても、その人がやることは、何であってもその人にしかできないことであるはず。いまの私はその部分を大切にしながら“自分ができることをひたすらに”やっていきたいと思います。」

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これから先の10年も自然に、あるべき姿で、なすべきことをなしていければ、という思いとともにお話しをしてくれたまほさん。周りに委ねながら、自分は精一杯になすべきことをする。そんなSipilicaの周りにはこれからも素敵な仲間が集い、お客さまも含めたじんわりとしたあたたかな輪がさらに広がってゆくことだろう。ぜひ、earth garden “夏”の Sipilicaブースへ。

Sipilica/MAHOKATO EXHIBITION 2015Nov.
「Piece of the Earth.」

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日程:2015年11月21日(土)~12月6日(日)
場所:鎌倉 GREENROOM GALLERY