Bean to Bar チョコレートの「Minimal」の代表山下さんが語る「食文化のニューウェーブ」

作り手の愛がこもったクラフトビール。産地によって全く違う味わいのワイン。そして、今、話題の豆から淹れ方までこだわったサードウェーブコーヒー。素材にこだわりいいモノを作る。そういった価値観が大切にされてきていると実感する場面は多いと思います。

そんな中「素材」や「製法」にこだわりをもつ「チョコレート」が出始めました。それは「Bean to Bar」と呼ばれ、豆(Bean)から板(Bar)にする工程全てに手間暇をかけて、カルチャーとしてのチョコレートを作ろうとするものです。

ニューヨーク・ブルックリンにある「マスト・ブラザーズ」というお店ではじまったこの概念は、今ではチョコレートの本場、ヨーロッパにも伝わり、日本でも少しずつ広まっています。今回は、日本においてその先駆けとなった東京の富ヶ谷にあるBean to Barのお店「Minimal」に取材してきました。

チョコレートをお菓子から食文化へ

クリエイティブなオフィスが並ぶ富ヶ谷に『MInimal』がオープンしたのは、2014年12月のこと。スッキリと洗練されたお店の奥には、ガラスで仕切られた工場があり、今まさにチョコレートが作られている工程を間近で見ることができます。今回お話を聞かせてくれたのは、代表の山下さん。

「日本では、『お菓子』という感覚が強いチョコレートですが、アメリカやヨーロッパでは『食文化』の一つとして定着しています。だからこそ、僕らは、カカオにきちんと向き合って、カカオの良さを表現することで、その良さをもっと広めたいし、チョコレートを文化にしていきたい。僕らのお店のロゴには『Bean to Bar Chocolate』の文字まで入れてデザインしているんですが、それは僕らが『Bean to Bar』しかやらないという、強い思いからです。」

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元バックパッカーで旅好きの山下さんは特にブルックリンが大好きで、Bean to Barの始まりのお店「マストブラザース」の存在も数年前から知っており、そのチョコレートの美味しさも体験済みだったそうです。ただ、その当時はそこまで関心はなかったそうなのですが、、

「今、うちのお店でチョコレートの製造をしているアサヒは、元々こだわりを持つコーヒー屋さんをやっていまして。そこでめちゃくちゃ美味しいチョコレートを出していたんですよ。それを食べて、もう衝撃で!こだわった豆と、作る人の技術が組み合わさると、こんなにもチョコレートが美味しくなるのかと。でも、世の中にはまだその価値が全然伝わっていない。これは本当にもったいないと思いまして。」

前職はコンサルタントをしていたという山下さん。退職して自らのブランドを立ち上げ、いいものを発信したいと思っていたときにこの出会い。これがお店を始めるきっかけになりました。

世界に広がる素材を大切にする食文化

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山下さんは、前職を退職してからMinimalを始めるまでの間に、アメリカのBean to Barとヨーロッパのショコラティエをまわる旅をします。

「世界の名だたるショコラティエのお店に行って、飛び込みで『日本でBean to Barチョコレート屋を始めるから、工場を見せてくれ!』って(笑)度胸だけはあるもので、たくさんのお店をまわりました。例えば、フランスの田舎町で100年くらいショコラティエをやっているお店があって。今のオーナーは4代目なんですけど、小さな商店の裏に工場がありました。彼も、豆をすごく大事にしていて、いわゆるヨーロッパ的な華やかなショコラの世界にいる人たちも、これからはカカオ豆の時代だと言っていたのがとても印象的です。」

安いものは安いなりの理由があることがわかってしまう時代。特に食べるものに関しては、生活を豊かにする重要な要素ですから大切に選んでいきたいですよね。

味も香りも個性的な8種類のチョコレート

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さて、そんなMinimalのチョコレートをそれぞれ解説していただきました。

「『NUTTY』は、ローストしたアーモンドっぽい香りと、ザクザクしたカカオの食感が特徴。『SAVORY』は“香りの良い”という意味で、最後の方にミントのような香りが抜けます。『FRUITY』は、ベトナムのカカオを使っていて、酸味の強いベリーのような味が特徴です。この3つは、香りの変化を楽しんでほしいチョコレートです。

次の2つは、製造工程の違いを感じてほしいんですが、『PRIMITIVE』 はザクリとした食感が特徴で豆の持つみずみずしさを残しています。コロンビアの カカオを使って、ちょっと華やかな味に落ち着く前にバラやシナモンのような香りと甘みがあります。これは、カカオハンターと言われている小方真弓さんという女性が、コロンビアで作っていているんです。『CONCH』は、すり潰す作業を他のチョコレートよりも長くやったもので、非情に滑らかな食感です。

僕はこの『PRIMITIVE』が好きです。
僕はこの『PRIMITIVE』が好きです。

最後の3つはカカオ濃度に変化をつけています。ここまでのものはだいたいカカオ濃度が70%ぐらいなんですけど、『BITTER』は85%です。マダガスカルのカカオで、世の中の85%よりも苦味はないです。良い豆を適切な製法で加工すれば、85%でもかなり甘みを出せるってことなんですよ。『SWEET』はカカオ濃度が62%です。最後の方に濃厚な蜂蜜のような甘みがでます。」

店内にはタイルで作った世界地図があり、産地の位置を知ることができます。
店内にはタイルで作った世界地図があり、産地の位置を知ることができます。

取材に行った時は在庫の都合で解説を聞けなかったのですが、カカオ豆のブレンドによるバランスがとれた味わいのBLENDがあり、計8種類の味を楽しむことができます。カカオの違いで、これだけ幅があるんです。素材ありきで、どんな表現ができるか試行錯誤の最中ということで、これからも柔軟に変化していくでしょう。

チョコレートとのコミュニケーションをデザインする

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このお店のチョコレートの特徴としてさらに面白いのは板チョコのデザインです。様々な形と大きさが組み合わさっています。

「小さいピース以外は1つが3〜4gになるように体積を計算して自分たちでデザインしています。この大きさが一番カカオを感じてもらえるようなんです。

さらにそれぞれのピースにも意味があって。一番上は一口で食べていただいて口の中で溶かしながら味わってほしい。素材感のあるチョコレートですから、舌触りで楽しんでくださいと。次はかじってもらえるように長い形をしています。カカオの粒子を荒く残してあるので、そのザクザク感を楽しんでもらいたいんですね。そして、この小さいピースは、自分の好きな大きさに割って楽しんでもらって。最後においしかったら、周りにシェアしてくださいと。」

ただ、かっこいいだけではなく、楽しみ方まで、考えてデザインされているんですね。とくに、最後にシェアしてほしいというところに、グッときます。さらにお店の内装にもある工夫がされています。

バーカウンターでイートインを楽しむ

http://mini-mal.tokyo/ より
http://mini-mal.tokyo/ より

「この店舗のポイントの一つは、L字のバーカウンターなんです。今までになかった新しいチョコレートの文化を『伝える』ではなく『伝わる』ことを大事にしていますから、お客さんとしっかりとお話ができるように、カウンターを作り、店内でもチョコレートアイスクリームや、ホットチョコレートなどが食べれるようにしたんです。」

板のデザイン然り、お店の内装然り、コミュニケーションを重視する山下さん。そこには、前職のコンサルタントの経験が生きてきます。

「僕らが大事にしているのは『現場にしか答えがない』ということです。自分たちが現場に立って試行錯誤しないければ、改善が必要なことも分からない。もちろん、毎日店頭に立つのも好きですよ。楽しみながらやっています。」

というわけで、これを読んだあなたはまずは現場に行かなくては!今後はフェス出店もしていきたいとおしゃっていたので、もしかしたらキャンプしながら美味しいチョコレートを楽しめる日も遠くないかもしれませんね。

Bean to Bar チョコレートのお店「Minimal」から見える食文化のニューウェーブ。今後もこういった流れは加速していきそうです。

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