夏!琵琶湖のほとりで「戸津説法」に参加してきた

6月の終わりごろ、1通の書状が届いた。それは一昨年の連載で取り上げた( http://www.earth-garden.jp/goodlife/45035/ )「戸津説法」の案内だった。これは行くしかない。今回は、はじめての戸津説法をレポートする。

戸津説法とは、毎年八月二十一日から二十五日まで比叡山麓琵琶湖畔(ひえいさんろくびわこはん)の東南寺において行われる「法華経」(ほけきょう)についての説法のことで、かつてこの場所が「戸津の浜」(とづのはま)と呼ばれ、又、説法の道場が東南寺であることから「東南寺説法」とも呼ばれています。

その歴史は、天台宗の宗祖・伝教大師最澄(でんぎょうだいしさいちょう)さまがご両親への孝養(こうよう)の一つとして、ご両親をはじめ村人のために「法華経」をお説きになられた時にまで遡ります。当初は生源寺(しょうげんじ)(坂本)、観福寺(かんぷくじ)(下坂本)、東南寺の三ヶ所で十日間ずつ三十日間にわたり行われていましたが、織田信長による比叡山焼き討ち(元亀の法難)(げんきのほうなん)以降は、東南寺のみで三十日間の説法となり、やがて江戸時代に十日間となって、明治以降は、現在の五日間となり、天台宗にとって最も重要な行事の一つとなっております。

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この夏、お盆の期間に体調を崩して一時は参加が危ぶまれたが、何とか回復した8月の23日に、朝1番の新幹線に飛び乗って新横浜~京都へ。京都駅~湖西線(こせいせん)で17分ほど琵琶湖畔を北上。会場となる東南寺の最寄駅「比叡山坂本」に、9時には到着した。

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筆者(天台宗)の本山である比叡山延暦寺がそばなので、この駅はよく利用するが、いつも降りても山側ばかりで、逆方向(琵琶湖側・東南寺側)へは行ったことがない。会期中は臨時バスが運行しているらしいが、この日は朝早すぎたのかタクシーで向かうことに。すでに会場へ向かうと思われる僧侶の姿がちらほら。

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石作りの昔ながらの寺町といった風景を走ること5分、会場の東南寺さんへ到着。(帰りに歩いてみたが徒歩でも17分程だった)

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受付で名前を記入。前もって出席の返事をしていなかったが、快く入れていただけた。
説法師(せっぽうし)となられるお坊さまは毎年異なり、東の方、本山(比叡山)の方、西の方、というローテーションが一般的になっているようだ。その年の6月4日(天台宗の宗祖・伝教大師最澄のご命日)に比叡山にて任命され、説法師となられた方はそこから約2ヶ月の期間で準備をし、本番を迎えられる。

今年は東の番で、いつもお世話になっている横浜のお寺の大僧正が任命をされたので、筆者にもご案内の通知をいただくことができた。

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お寺の境内に足を踏み入れると、懐かしい香りがする。いなかのお線香のにおいとでも言おうか、この場所が昔から大事にされてきた証のようなにおいだ。

9:30頃~、『諷誦文』(ふじゅもん)が読まれ始める。「亡くなられた○○さんがあの世で元気に暮らせますように。施主△△」という文言が、高僧によってお一人おひとり丁寧に読み上げられるのである。その用紙がうず高く積み上げられていて、読み終わるまでに約1時間を要す。

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諷誦文(ふじゅもん)受付所。当日受付も可能なようだ。お戒名が判ればそれも読み上げてもらえる。
ここの受付もまた下準備から何から、すべて講(こう)(サークルのようなもの)の方が行って下さっている。

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10:30、いよいよ説法師が登壇。「おはようございます」の挨拶とともに、その日の説法に入っていく。
お説法は、会期の8/21~25の五日間で「法華経」(ほけきょう)全28章+αを分割して話すことになっている。聴聞に伺った23日は中日で、12章~20章の日だった。

お説法には、説法師の個性がモロに出る。今年の説法師の西郊良光(にしおかりょうこう)先生は海外布教にも尽力されておられる方なので、インドや中国、北朝鮮など海外の仏教の情勢に明るく、現場の様子を時に笑いを交えながら、ユーモラスに「法華経」を語られる。なされるお話はどれも貴重な経験談ばかりで、思わず引き込まれる。その豪快な語り口にはただパワーをもらうばかりだ。

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関西は盛夏である。炎天下の暑さしのぎに、お寺の境内のテントでは扇風機が回され、お水もいただけ、まさにおもてなしの心づくしである。

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スタッフには、説法師のお膝元の神奈川県から多くが加勢にきている。同じ神奈川の何十人もの先輩にお会いし、お手伝いとして参加できなかった自らの無礼を詫びる。

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つかの間、会場を抜け出して目の前の琵琶湖へ。風に乗ってお説法のマイクが聞こえてくる。伝教大師の頃から変わることのない、のどかな琵琶湖の風景だ。

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会場にはマスコミ含めぞくぞく人が集まっている。近隣の若いお母さんが、赤ちゃんを抱いて聴聞に来ている。老若男女、僧侶以外の方では若い女性が多いように見える。

お説法は連日、昼にはおしまいとなる。がこの日はお中日ということもあって、午後もご法話があった。

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フとみつけた、「戸津説法聴聞記念」の限定ご朱印を記念にゲット。昼過ぎに会場を後にした。
念願の初参加は、貴重な経験となった。流れている時間はゆっくりであり、そのゆっくりさが、連綿と続いてきた歴史のスケールを感じさせる。自分が、大きな河の流れの一部のような感覚をうけるのだ。
古儀に触れてみたい方は、ぜひ機会をつくって聴聞されてみてはいかがだろうか。