ハセベケンが考える渋谷の未来は「自然に人が交じり合っているピープルデザインな街」

渋谷区生まれ渋谷区育ちの40歳。渋谷区区議会議員。博報堂で経験を積み、ポップなアプローチで、僕たちと政治との溝を埋めてくれる。親しみやすく、楽しそうに街づくりを行うハセベケンさんにクリエイティブで、カルチュラルな渋谷の未来を教えてもらった。

※2012年12月発行のフリーペーパーより掲載

このままだとちょっとやばい渋谷

僕は神宮前で生まれて、神宮前小学校にいって、中学校はその裏の原宿中学校に通ったんだ。小さいころは、竹の子族とか、ロカビリー族とかいっぱいいて。竹下通りもまだ普通の商店街だった。今のKDDIスタジオ裏は、メインストリートだけが商店街で、あとは住宅街。とんちゃん通りも所々に八百屋があったり、魚屋がある普通の商店街だったのね。表参道もこんな人いなかったよね。ビームスもアローズも、花開いたのは渋谷・原宿からで。古着屋もそうだし。この街に来ないと買えないものがざくざくあって。渋カジとか、デルカジとか。最近だと、低年齢化してきてギャルとか。昔ほどのパワーはないにせよ、今もこの街はずっとカルチャーを発信し続けている。

でもね、今のままだとちょっとやばいわけよ。ここ数年の雑誌の見出しを調べてもらったことがあるんだけど、渋谷とか原宿の文字が減ってる。今は谷中・根津・千駄木のいわゆる谷根千エリアとか、ちょっと移ってきてる。世の中が渋谷化したことも大きいと思っているのだけど。駅ビルがあって、百貨店があって、繁華街があって、同じような店が並んでて、渋谷と変わんない。そりゃ、見飽きるよね。

海外にクリエイティブを学びに行こうってなると、まずはパリ、ニューヨーク、ロンドンとかが出てくる。それに次ぐような、ベルリン、ストックホルム、シドニーとか、いい感じの都市がどんどん出てきてる。東京も、世界中の人からクリエイティブ都市だって思われてるんだよ。だけど、自分たちはその自覚がない。それってもったいないよね。だからちょっと今までと違うクリエイティビティを積極的に発信しないといけないんだろうなって、そういう課題を感じてた。

credit: Salah Althubaiti via FindCC
credit: Salah Althubaiti via FindCC

障害児の息子さんが生きてきて、初めて社会の役にたってる機会なんだ、と

日本人の名字のベスト5って佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤なんだけど、合計したら700万人くらいいるのね。そして、日本の障害者手帳発行数も、730万人なの。えっ?って感じじゃない?俺は障害者の友だちそこそこ多い方だと思ってたんだけど、その名字の友だちの方が圧倒的に多いわけ。つまりそれだけ街に出てきてないんだよね。その730万人のうち2〜300万人は街に出れない人なのかもしれない。

僕は、greenbirdっていう『きれいな街は、人の心もきれいにする』をコンセプトにした街のゴミ拾いのプロジェクトをやっているのだけど、年に一回、知的障害者の人と一緒に掃除するんだよね。ツボにはまると、俺たちよりガンガン拾う人もいて。んで、帰り際に、16歳の障害児のお母さんが、ありがとうございますってすごく言うんだよ。何を感謝されてるんだろうって思ってたら『息子が16年間生きてきて、初めて社会の役にたってる機会なんだ』って。俺もじーんときちゃったのと同時に、施しを与える福祉しかしてないんじゃないかなって気づいたんだよね。

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ピープルデザインを渋谷から

そこでね、ダイバーシティって言葉はもう他のところで、使われちゃったけど、もっと自然にいろんな人が一緒にいれるような空気にしたいんだよね。それには、人の意識のバリアを打ち破る契機が必要で、いろんなしかけをしていかないと。

で、注目しているのがピープルデザイン。これは「第3者に対する配慮・共存・共生への気づきがある/ハンディを解決する機能やサービスがある/ファッション・インテリアデザインとして洗練されている。のうち2つ以上を満たすもの。」っていう定義づけをしていて。この間NPOになったんだけど、代表の須藤シンジさんはね、子どもが脳性麻痺で生まれて。百貨店で、PRとか、バイヤーとかやっててさ、まぁばりばりの仕事人で、けっこう遊んでもいたと思うんだよね(笑)

その人が、息子のために何ができるかって考え始めた。例えば、アシックスとのコラボでハイカットのスニーカーを作ったんだよね。チャックで簡単に脱ぎ履きできて、障害者の人も履きやすいデザイン。それをニューヨークのセレクトショップから販売したんだ。今まで息子が履ける障害者用の靴を買おうとすると、ダサいデザインで届くのに2ヶ月間もかかってた。普通の店で、普通の人が買える靴であれば、ロットが稼げるから安くできる。さらに、障害者が、かっこいい靴を買おうと町に出るんだよね。2つの大きな効果を実感して、彼はこの手法だって思ったんだ。彼は人脈が広いからさ、こういうことをやってるんだっていうと、海外のクリエイターが二つ返事で参加してくれる。他にも、有名なデザイナーが作ったレインコートがあるんだけど、ポケットがへんなところについてるんだよね。それは、車椅子の人が使いやすいような場所についてるの。それをスポーツ観戦に便利ですっていって売るわけよ。そうしてロットを稼ぐ。

こんなことを僕は応援している。障害者だけでなく、お年寄りや子どもにも関わってくる話だし、僕はファッションも含めて新しい価値をこの町から発信していきたい。今よりも、もっと自然に人が交じり合っている街。渋谷はそれが出来る街だし、もうその空気は感じる。それが早く来るように、いろんなところをつついて、刺激して、しかけていきたいんだよね。