長かった冬があけて、ありとあらゆる緑が萌えいずる今日このごろ。そんな草花の中には、食べられるものもたくさんあります。ひとくくりに「山菜」なんて呼ばれていますが、気をつけて歩いてみれば、山でなくたって食べられる野草は生えているんです。散歩の途中で、道草、食ってみませんか?
毎年、私に春の訪れを告げるのは、春一番でも黄砂でも桜でもなく、スギの花粉。今時分はメガネにマスク、帽子をかぶって出かけないと、ありとあらゆる粘膜をはじめ、むきだしになった皮膚はアレルギーでぶっくり膨らんでしまいます。毎年この時期は、花粉症で頭の中にまで春霞がかかったようです。できることなら家のなかに引きこもっていたいのですが、野外で活動してなんぼの商売なので、全身をがっちり覆って出歩いています。もう、ぱっと見は完全に変質者です。
そんな私だって、春の訪れを喜んでいないわけではありません。春の間に何回か勇気を振り絞って、自分のために春の野草を摘みに出かけます。もちろん、変質者スタイルで。
「山菜」というと、なんだかアクの強い植物を「これが野生の味」とかなんとか自分にいい気かせて、無理して食べる、といったイメージが強いですが、中には食べやすい野草もあります。
手軽に食べられて、どこにでも生えている道草の御三家はやはり、ノビル、ツクシ、セイヨウタンポポの3種でしょうか。ちょっと気をつければ、ほかにもタネツケバナ、クコ、イタドリ……といった野草はどこにでも生えているのですが、全くの初心者にはちょっと難しいかも知れません。
酢味噌で食べるとおいしいノビル
ノビルは日本各地の土手や原っぱに自生するネギの仲間。大きな都市のまんなかでも、ちょっと古い土手なんかがあると普通に生えています。日当たりが良く、定期的に草刈りがされる皇居の周辺の土手なんかは生育に最適のようで、素通りするのはもったいないような立派な株が生えていることも。
移植ゴテでまわりの土ごと掘り起こし、さっと土を払うと、独特の香気が立ち上ります。水洗いして軽く湯がき、酢味噌で食べるのが一般的な食べ方。エシャロットのような、爽やかな辛味が楽しめます。私などは、野山の散策中に2本、3本と引き抜き、外側の薄皮をつるりとむいて泥を落とし、シャリシャリとかじりながら歩くのが大好きです。春のひざしがぽかぽかと温かく、ヤマザクラの花がぽってりふくらみ、粗起こしの住んだ田んぼからシュレーゲルアオガエルの声がクリリリ、クリリリと響いている……そんな里山の風景とノビルの味は私のなかでセットになっています。
バター炒めが簡単なツクシ
子供から大人まで、知らない人はいないのがツクシ。他に似ている植物もないので、誰でも安心して取ることができます。手のひらいっぱいに摘んでも、炒めると嵩がなくなってしまうので少し多めに摘むのがツクシを楽しむコツ。アクの少ない野草なので、どんな料理にでもできますが、とってすぐ食べるならバター炒めが簡単。袴をむしって炒めるだけで春の味を楽しめます。
野菜として移植された?春のセイヨウタンポポ
春のタンポポもじつはおいしい野草。食べるのは日本にもとから生えていた在来タンポポではなく、海外からやってきたセイヨウタンポポのほう。なんとこのセイヨウタンポポ、最初は野菜として移植されたそうな。都市公園の原っぱなんかでも旺盛に繁茂しているのでどこでも手に入ります。摘んだらさっと水でながすだけでもおいしく食べられますが、かりっと炒めたベーコンと和えて、オリーブオイルと岩塩をふったら、それだけで立派なサラダになってしまいます。
まずはこの3種から道草の食べ方を学び、少しずつレパートリーを増やしていきましょう。目が慣れると通勤中の電車からも、食べられる野草が目につくようになってきます。そんな場面で「あ、摘みたい」と思うようになったら、あなたも立派な道草食い。ジャケットのなかに酢味噌を常備するようになる日も近いでしょう。春先は変な人が増えると聞きます。道ばたの草を楽しげにむしるくらいは多めに見てもらえるはず。たまには道草食ってもいいじゃない、人間だって、けだものだもの! (文=密お)