密おの「ああ、食べるってのはこういうことなんだ」 [ご近所狩猟採集ライフ]

今、密やかに狩猟ブームが訪れていることに、みなさん気づいていましたか?狩猟には「とって」「殺して」「食べる」というプロセスがありますが、どうも「殺して」「食べる」という行為について、若者を中心に世の中の人が興味を持ち、実践しはじめたようです。みなさん、最近殺して食べてますか?

credit: BO31555 via FindCC
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狩猟ブームが来ています、、、

「狩猟ブーム? んなもん来てねーよ!」と突っ込んだ方は今すぐ書店へGO! 自然図書、もしくはエッセイのコーナーに狩猟をテーマにした本が平積みになっていたり、すでに狩猟コーナーが設けられているのを目にするでしょう。ジャンル別の売れ行きでは、狩猟本が結構上位に入っていたりします。

このブーム、現在はまだささやかなもののため、狩猟をしている人たちのエッセイやドキュメントが中心ですが、成熟するに従って「イノシシのすべて〜その生態と捕獲から調理まで〜」とか「おいしいジビエライフ365日」、「命をいただく ●山●●みさんの、丁寧な野生肉ごはん」なんてな本が続々と刊行されるであろうことを、私はここに予言しておきます。

狩猟ほど大げさではありませんが、「とって、食べる」という行為については私もほんの少しなら語らせてもらってもよいのではないでしょうか。

この原稿を書いている段階では月も半ばですが、すでに今月は100匹ばかり殺りました。内訳はイワシ多数、ウナギ12、スッポン1といった按配。イワシなんかは魚に弱いと書くだけあって、釣り上げた瞬間に、もう半死半生といった感じですが、ウナギやスッポンなど、生命力にあふれた獲物は食べる前にどうしても「殺す」という行為が必要になってきます。

子どものころから生き物をたくさん殺してきた私ですが、数をこなし、歳を経ても「殺す」という行為に慣れはしても心が痛まない、ということはありません。ウナギなんかは生きている間にさばかないとちっともおいしくないので、ウニウニ動いているのをむんずとつかみ、まな板に目打ちで打ち付けて開いていくわけですが、何度やっても自分の手のひらのなかで生命感が失われていくのは嫌なものです。

先日さばいたスッポンにいたっては、ひっくり返して首を伸ばしたところをエイヤと出刃で切り落としたら、首なしの胴体がシンクのなかを「シャカシャカシャカシャカ!」と駆け回りました。首を落とすときに感じた、刃にあたる血管やら食道やら筋肉や骨の感触と相まって、自分で殺しておきながらこれはかなりこたえました。ちょっとブルーな気分で食べたスッポンはおいしくもあり、切なくもありました。

このように、魚にせよ、肉にせよ、「食べる」という行為の前には、「殺す」という行為が必ずあったはずなのに、私たちの多くは毎日「食べ」てはいても「殺し」てはいません。ブラジルからやってきた鶏や、アメリカから来た豚や、オーストラリア来た牛を殺すことの痛みを払わずにおいしく食べています。

昨今の狩猟ブームは、このへんに違和感を持ちはじめた人を中心に盛り上がりはじめているように思います。先日会ったあるハンターは「冬の間の猟期だけで、家で消費する1年分の肉を確保する」と言っていました。言葉こそ少なかったものの、彼が自分と家族の体を養うタンパク質を自分の力で得ていることに誇りを持っていることと、命の糧となるほかの命の重みを知っていることを感じさせられました。

自分でとった肉にはストーリーがあります。どこで、どんな風に出会い、どうやってとり、殺したのか。肉のひと切れひと切れを食べるときに、獲物が駆け回っていた野山の広さや、海や川の深さ、冷たさに思いをはせさせられます。

勘の鈍い私なぞは、最近になって、「ああ、食べるってのはこういうことなんだ」という実感をはじめて持てるようになった気がしています。自分でとったもの以外の食材も大切に無駄なく扱うようになりました。

credit: BO31555 via FindCC
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おっとっと! 今回もまた脱線したまま原稿のスペースが埋まってしまいました。次回こそ――機会が与えられればですが――みなさんにもお気軽に実践してもらえるご近所での食糧調達についてふれたいと思います。

みなさん、もっと野外に出ましょう。そして自分の身体を使って、生き物=食物を採ってみましょう。自分で殺して、食べてみましょう。その課程には収穫の喜びと興奮、殺すことへの罪悪感や後ろめたさ、食べるという行為の本当の意味だとか、いろんな感情がない交ぜになった心の震えがあります。

感謝の念を持ちながら自分の個人的な能力の範囲で殺して食べる分には、自然はきっと怒らないように思います。人間だって、けだものだもの!   (文=密お)