【Hi! LIFE八ヶ岳2018 レポート】それぞれに愉しむ唯一無二の時間、その集約された姿こそが、まさに絶景

うだるような暑さの“下界”とは打って変わって、清涼な空気が心地よい山梨県・清里高原で、今年もアースガーデン主催の“絶景フェス”「Hi! LIFE八ヶ岳2018」が開催されました。見上げれば堂々たる八ヶ岳連峰、見下ろせば眼下に広がる甲府盆地とその周りには南アルプス&秩父連峰、はるか向こうに富士山も……しかし、味わえた絶景はそれだけじゃなかったのです。

「山の神よーッ!!」──メインの「ハイライフステージ」で2日目大トリを務めた地元出身のラッパー「田我流」の野太い雄叫びが、残照に映える八ヶ岳の山々に響き渡りました。2018年7月21日(土)-22日(日)。全国的に例年を超える暑い日々が続く、まさに夏真っ只中の2日間に開催された今年の「Hi! LIFE」。そのクライマックスであり、象徴的なシーンでした。

濃縮「清里・八ヶ岳カルチャー」を味わう欲張りフェス

開催地「サンメドウズ清里」は、標高にして約1,600m(パノラマリフトで行ける「清里テラス」は1,900m!)。冬はスキー場、夏には冒頭で書いたように胸のすくような絶景を楽しめる人気の観光スポットです。

ご存知の方も多いと思いますが、そもそも清里高原は1935年東京・奥多摩のダム建設に伴って移住を余儀無くされた人たちが中心となって拓いてきた土地で、1980年代からバブル崩壊までの間、一斉を風靡した“ステレオイタイプ的”避暑地時代を経て、今ではその豊かな自然環境から、エコ&オーガニック・ライフを求めるナチュラリスト達が、都会から続々と移住してきている場所でもあります。

ガーデン・デザイナー、ポール・スミザーが手がけた庭やオルゴール博物館や地元工芸家のギャラリーを擁する「萌木の村」。濃厚なソフトクリームが有名な「清泉寮」(運営するキープ協会は、日本の環境教育の開祖的存在)。名物カレーや絶品クラフトビールが飲めるレストラン「ROCK」。大自然に囲まれた露店風呂で、夜には満点の星空で心と体を癒せる「甲府大泉温泉パノラマの湯」……

あげればキリがないほどの観光スポットに加え、会場周辺にはたくさんの個性的で魅力あふれるペンションやホテルもあり、もちろん2日、3日と滞在して存分に味わい尽くすこともできます(ちなみに「Hi! LIFE」では、スキー場のゲレンデにキャンプインして豊かな自然と文字通り一体となる、なんてさらに贅沢かつ貴重な体験もできました)。

そんな取り巻く自然とそれに育まれた清里(あるいはそれを擁する山梨、八ヶ岳地域)カルチャーの魅力をギュギュッと集約して、グッドミュージックとともに楽しめる……「Hi! LIFE」とはそんな欲張りフェスなのです。

濃淡が心地よく混ざり合う、風景そのものの音空間

注目のステージ上では、オープニングアクトを務めた地元山梨出身の“大工シンガー”サノケンの熱い歌声を皮切りに、ブルース、ロックからカントリーミュージック、HIP HOPまで多彩な音世界が展開されました。

多くのファンが詰めかけたbonobosやPolaris。熱狂ギターと軽妙トークが炸裂したシアターブルック。透き通る声がまるで山々に染み渡っていくようだったbirdや森ゆに。会場の子供たちとハチャメチャでハッピーなステージを繰り広げた七尾旅人。実験的なオーガニック・エレクトロとシャーマニックな歌声が融合したYae&谷崎テトラに、打楽器ジャンベのビートに踊らずにはいられない辻コースケやオマール・ゲンデファル(Afro Begue)のアフリカンミュージック。

2日目の朝ヨガでも心地よく響いた伊藤礼のシタール演奏……多種多様でありながら、不思議な統一感さえ覚えてしまう、それはまるで周りに満たされている空気のように、時には吹き抜け、時にはたゆたい、濃淡が心地よく移り変わりつつ、時間が流れていきました。

「こちら」と「向こう」の境目がない?

2回目となる今年の「Hi! LIFE」は、前回から会場デザインを変更、「ハイライフ」「清里」2ステージ間のアクセスがよくなり、さらにマーケット&ワークショップエリアとの一体感も良好で、コンパクトながらフェスの全体像を俯瞰しやすくて、効率よく、集中して楽しめる工夫も施されました。

印象的だったのは、(昨年にも増して)来場者だけでなく、出店者も、そして出演者(&運営スタッフ!)までもが、本当に思い思いに楽しんでいたことです。MARKET&FOODエリアではそれが特に顕著で、いってしまえば、ただただ美味しい、楽しい、気持ちいい空間。DJテントから流れてくる音楽を楽しみつつ、地元グルメを味わい、クラフトビールやワインでほろ酔いになったら踊るもよし。

1日1回組み込まれていたトークセッションでは、「地域や移住」、「自然とパーマカルチャー」の話に耳を傾けて、ちょっと真面目に考えてみたり、ワークショップでアクセサリーを作ったり、身体を動かしてみたり…… 家族づれも多くて、そこら中で子供達も走り回り、もはや提供する側・される側などない混然一体となった幸福感、ちょっと酔いも手伝って、「ミラクル!」と何度も一人で(ニヤけながら)呟いてしまったことを白状します。

誰かに見守られているような安心感と開放感

美しい景色を眺め、清逸なる空気を肺に取り込み、良き音楽に身を任せ、美味なる食に舌鼓を打ち、愛する家族や気のおけない仲間と過ごす極上の時間──長々書いてきておきながら、まあ、あっさりまとめてしまうとそんな感じの「Hi! LIFE」。しかし、今回特に強く感じたことを、最後にどうしても書いておきたいと思います。

例えば1日目のハイライフステージ。最後のPolarisが演奏を始めると、徐々に会場全体を霧が覆い始め、そんな天然のスモークによって驚くほど幻想的な空間が出来上がってしまった時。ステージが終わった直後に、慌ててプロデューサーが壇上に登場して「北極星(ポラリス)が見えていますよ!」と空を指差した時。あるいは、雨がパラついてもおかしくない、ひんやりとした空気が流れていたのに、夜にはすっきり晴れて、満点の星空にくっきりと天の川が流れていた時。

そして、2日目最後の演者、田我流がいきなり叫んだ時──「山の神よーッ!!」。

2日間を通して感じていた安心感と開放感。野外フェスでは良くあること、と言われればそれまでかもしれませんが、人知を超えた何か(誰か)が、常に見守ってくれているような感覚……田我流の言葉に、おそらくその時会場にいた全員が「ピンときた」んじゃないかと思います。

そもそも至福の時間とは、本来「私的」なもの。でも一人で満喫しつつ、それを見ず知らずの(しかも大勢の)人々と共有できれば、それはもっと幸せなことだし、貴重でもあリます。今回「Hi! LIFE」で味わった至福の時間は、紛れもなくかけがえのないものでした。ところが、「山の神」の庇護の元、その時我々はもはやひとつの「塊(かたまり)」でした。護られ、生かされ、育まれている者たち。「とにかく幸せ」という状態。

時間とともに移り変わる光や空気のように、濃密でありながら、あっという間に過ぎ去った「Hi! LIFE」という掛け替えのない2日間。そして、終わってしまった瞬間から、また来年へと続いていくのです。

田我流のラップで盛り上がるオーディエンスを見ながら、自分はステージから離れた芝に腰を下ろし、2日間で目にした多くの人のことを思い出していました。山の神にとっては、ここに人々が集っているこの風景こそが、絶景なんじゃないの?……またしても一人ニヤけつつ、我ながら悪くない考えだと思いました。