私たちの人生は実験だから。暮らしかた冒険家の2人が語る「どこで生きていくの?」

妻:カメラマン 夫:ウェブプログラマー 僕にとっての理想の夫婦。キャンプ場で手作りの結婚式あげ、住む場所を探しながら西日本を新婚旅行した。今は熊本で廃墟のようだった町家を改築しながら生きる2人は、何を考え、どこに向かうのか?

どこでも生きていける 死ななきゃいいんだから
伊藤菜衣子 池田秀紀

東京じゃなくてもいいし、熊本じゃなくてもいい。 たぶん、どこでもいい。

伊藤「熊本に来たのは0円ハウスの坂口恭平さんのTwitterがきっかけ。35年ローンはせずに、自分の住みたい様に住みたかったから。ちょうどこの古民家と巡りあったのも大きいかな。 熊本の人は熊本が好きなんだよね、すっごく。

みんな『ここではないどこかへ』って感覚で生活している 中、熊本の人は熊本が大好きで、それがすごく引っかかった。何がそんなに好きなんですかって聞くと、それ熊本じゃなくても…っていうのが多いんだけと(笑)。これから心豊かに暮らしていくヒントになるんじゃないかなって。」

池田「あとね、地理的なバランスがすごくいい。自転車で10分走れば街中に出れて、車で30分ぐらいで郊外。新幹線の駅まで歩いて10分だし、空港行きのバスが歩いて5分のところから乗れる。飛行機も安いからさ。東京まで片道10000円でいけちゃう。

今はまだ、東京とのつながりもとても大事だから。ここには都市も田舎もある、しかもやり過ぎない、ちょうどいい感じ。」

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photo by 伊藤菜衣子

伊藤「でもね、たぶん私たちはどこでもいいんだよ。東京じゃなくてもいいし、熊本じゃなくてもいい。これくらいの条件のところは他にもあると思う。私たちの新婚旅行は、住む場所探しの旅だった。

その旅を通じて分かったのは、私達に必要なのは、インターネットと台所とイスとテーブルだけだったってこと。だから、それさえあればどこにでも住める。その感覚がこれからとても大事になってくる。日本って、2040年には40%以上が空き家になるんだって。

だからこれから『マイホームを持つ』という概念はどんどん変わっていくと思うんだよね。マイホームを買うよりも、今建っている家をいかに住みやすくするかっていうほうが現実的な気がしている。でもね、こういう話ってなかなかウェブで探しても出てこない。

家のリビルドとか、お風呂の作り方とか。業者の情報も少ないし。町家のDIYなんて本当にない。私達は発信力があるから、実験で実践して、それを発信する。そしたら気になっている人が、どんどんはじめられるかもしれない。

家のリノベーションのスキルと人脈はかなり増えたから、もう一度同じような家の改築をやるってなったときにもっとスムーズにできる自信がある。」

家訓は『暇をつくる』

伊藤「我が家の家訓は『暇をつくる』なの。そして、 暇な時間に考えるんだよね。貧乏暇なしって言うけど、忙しく働いていると次の手が見えないじゃない? それが不安だから、どんどん詰め込んじゃう。」

池田「暇じゃないとたとえば、やりたい仕事が運良く来た時にできない。だから、自分たちがいつでも受けれるようにしておくと、仕事を選べるようになるんだよね。本当にやりたいことに対応できるようになる。暇があることが良いスパイラルを生んでいるのが、今。」

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photo by 伊藤菜衣子

伊藤「夫婦の会話もすごく大事にしてるんだよね。普通の夫婦が大事にしてるってレベルじゃなくてね。1日8時間ぐらいは議論しているんじゃないかな。 朝起きた瞬間から議論してる。原稿を直しても議論になるし、webを作っても議論になるし。それが毎日。

たまに2人が別々にTwitterやってても、Twitter上で議論してたり(笑) 震災のあと、夫婦がお互いの思いをチューニングしていないことは、すごく怖いことだと思ったの。疎開したいけど、仕事が…喧嘩になって、離婚する夫婦もいた。

でも、それって本人たちがいけないんじゃなくて、そういうシステムや空気感が悪いんだよね。私たちはすごく自由な選択をしているって回りから言われていて。でもそれは、震災の前から思ってい ることを率直に言い合っていたし、結婚する前から地方にいきたいっていう共通認識があったからこそできているんだよね。

夫婦が一生夫婦でいるためには、もっと濃密なコミュニケーションを取らなきゃいけないんじゃないのかなって思った。」

私たちの人生は実験だから

伊藤「私たちは夫婦で仕事しているんだけど、今、有機野菜を売っている会社のwebを作っているの。その仕事のギャラは、有機野菜一生分と畑使用料一生分なの。基本的に、熊本の仕事はお金じゃなくてもいいよって言ってる。

例えば、地元の工務店のお仕事したときは、そこのおじちゃんが集めている廃材を自由に持ちだして良いっていう権利だったし。熊本に引っ越してきて、全部お金じゃなくても大丈夫になった。東京にいたときは家賃10万円払ってたし、さすがにお金がないと…って気持ちが大きかったけど。

今は物々交換を楽しむ余裕がある。実際は、東京までの出張も多いし、家の改築費だってけっこうするけど。でも、最低限の家賃3万円と食べ物は確保できてるから、もうどうにでもなるよね。私たちは人生を実験だと思ってるんだよね。

今までの地域づくりや生き方って、評論とか、研究とか卓上のものが多かったと思うんだよね。でも、もうここまできちゃったから、実験が必要なんだよ。実践が求められているんだよね。」

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池田「生きるっていうのは、言葉遊びのようだけど『死なない方法を考える』ってことでもあると思う。そう考えれば、生きていくための方法は、実はたくさんあるのかも。こんな時代だからこそ、生きていくための『冒険』が必要なんじゃないかなと思っているんです。」

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