【TKda黒ぶち × AUTO × 小池直也】やりたいことを諦めない日常と非日常をつなぐヒップホップな生きかた

若い世代では、やりたいことをやりながら、仕事もこなしている人がどんどん増えてきている。音楽、スポーツ、ものづくり。1つのことを突き詰める人と同じくらい、マルチにいろんな活動をしている人がかっこいい。

今回はearth garden “冬”に出演してくれたTKda黒ぶち(ラッパー)と小池直也(サックス)、そしてearth gardenのGREEN ENERGY STAGEのオーガナイザーAUTO(DJ)の3人の対談をお伝えしたい。3人の共通点は、仕事をしながらヒップホップに生きていること。

音楽のある街

TKda黒ぶち(以下TK) 以前、1ヶ月ほどブルックリンで生活しました。昼間から路上でヒップホップが流れていて、それをモチベーションに生活をしている人がいる。夜には音が止まって、クラブも3時で終わり。日本でのヒップホップは夜のイメージが強いですが、本場ではずいぶんと違いました。

小池直也(以下小池)
 日本ではヒップホップもそうだし、ジャズもそうですが、ファッションや政治、そのときの時代と広くつながりがないので、カルチャーとして存在感がないのが残念です。

AUTO
 ヒップホップが生まれた背景には、団結して生きていこうよ、楽しんでいこうよ、という必要性があったわけですよね。”僕らの街だ”っていう認識があって、街の中で音を出す。日本の場合、あまり自分たちの街として団結して立ち向かう必要性がないので、表現の仕方も違っていて当然だとは思うんですが、街の中で音楽に鳴り、仕事の帰りにふらっと寄れるような場所があるといいなと思っています。

フラットに音楽を届ける代々木公園のステージ

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ーそういった中、まさしく街のど真ん中、というか渋谷のど真ん中で開催していて、出演いただいたのが、代々木公園でのコミュニティフェス「earthgarden」でした。

TK こんなに自分のラップとしっくりくる場所があったんだってビックリしました。自分の書いているリリックは、仕事のことや日常のこと、昼間をイメージしているので、ここ最近のライブでは一番やりやすかったですね。終わったあとの飯の時間も、ずっとステージの話をしていました。何よりも普段ヒップホップを聞かない人に聞いてもらえたのがうれしいです。実際、Twitterで、普段はヒップホップを聞かない人から感想をもらいました。

AUTO
 アースガーデンのステージってすごくフラットな場なんですよ。音楽が大好きな人もいれば、そうでない人もいるし、代々木公園にたまたま来た人もいて、いろんな人に音楽を届けることができるんです。その中で、立ち止まって聞いてくれたり、CDを買ったりしてくれる人がいる。黒縁くんのライブにもあれだけお客さんが集まってきて、じっくり見ているのをみて、すごくうれしかったですね。

日常と非日常をつなげるのがフェス

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小池 代々木公園って言われて、野外ステージのほうを想像していて。正直、あれ?って思ったんですが(笑)逆に良かったです。音楽と日常をつなぐという意味では、あのステージでしかできないことができたと思います。

TK 小説家は自分にとって大切な一言を登場人物に言わせますよね。読んでいる人は非日常にいるけど、日常につながるワードがポンっと出てくる。作者は日常と向かい合っているからこそ、その言葉を入れたわけで、ヒップホップはそれに近いと思っています。非日常の音楽の中に、日常のリリックが入っている。それを日常の延長の代々木公園の中にある非日常のフェスの中で聞く。

小池 ぼくが音楽で大切にしたいことは、道路に落ちている石が輝きだすように、何気ない人との出会いや、できごとに新しさを見出すキッカケになるってことなんです。そういった意味でのヒントがあのステージにはありました。

AUTO フェスは非日常でも、そこで買ったCDを持って帰ってくれれば日常への架け橋になるし、写真を見れば非日常だったあのときを思いだす。俺たちの日常は、フェスにつながっているんです。イベントは、始まったら終わるんですけど、それで終わらせない。みんなが持ち帰って、次に会うときにまた笑顔で新しい非日常を作ろう。そういった意味で、ひとつひとつのイベントの力を信じています。冬のステージでも、少し年配の女性が黒縁くんのCDを買っていたんです。「全部ちょうだい!」みたいな勢いで物販の子がちょっとびっくりしてました(笑)

TK それはすごいうれしいなぁ。

働きながら音楽を続けることで広がる表現

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TK 働きながらリリックを書いたほうが働いている人に響きますよね。だから自分は働きながらラップをしているんです。人はお金を何に払うのか、音楽でお金をいただくっていうのはどういことなのか、より深く考えるようになりました。現時点では、自分のやりたいことをやってお金を稼ぐというのは、ちょっと虫が良すぎるのかなって思っていて。今は働きながら自分を養って、自分の好きなものを研ぎ澄まして、熟成させていきたいです。もちろん音楽では食べていけない状況もありますが、だから嫌々働いているわけではない。むしろ働いていること、ラップ以外のことをしていることで表現の幅が広がっているんです。

小池
 今はPCが1台あれば、いろんな仕事ができる時代。だからこそ個人がいろんなことをやって、他の領域で得たことを活かすことが必要なのかなと思います。僕も記者をしながら音楽活動をしています。

TK
 レーベルを自分ではじめて、そこで流通業者さんやCD屋さんとやりとりをします。ラジオのパーソナリティーもはじめました。こうやっていろんな人に会って、いろんなことに挑戦して初めて気づくことがありますし、それは音楽にも影響しますね。

AUTO
 音楽を作って出すだけじゃなくて、自分たちで流通を考えたりとか、どんな動画にしようかとか、自分を自分でプロデュースしていく楽しみがありますよね。でも、それには、客観的な視点や他者と一緒にやっていく必要があって、それって仕事の中で養われることだと思います。

小池
 アーティストはちょっと斜に構えていればかっこよかった時代があったけど、今は無理。人とちゃんとコミュニケーションとっていく力が大切な時代だと思います。

AUTO
 イベントをやるにしても、会場との交渉やブッキング、ステージの技術的なこと、いろいろな要素があります。つらいことも多い。でも、好きなことだから頑張れるんですよ。フェスの設営なんて事前の準備で全然寝てないのに、当日の準備も膨大で、本当に大変だけど、終わってみればすごく楽しい。

TK
 そういうマインドのほうが絶対に良い場所作りにつながりますよね。不思議にその空気感が出る。

AUTO
 楽しいことって、ずーっと楽しいことの先にあるんじゃなくて、楽しいこともつらいことも含めた紆余曲折の先にあるんです。

自分の好きなことを諦めずに、できることから初めてみる。実は僕も、この原稿を書きながら前からやってみたかったスケートボードを買ってみた。入稿が終わったら、早速練習してみよう。

earth garden ”夏” 2017に出演
http://www.earth-garden.jp/event/eg-2017-summer/

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http://www.earth-garden.jp/culture/53701/

earth gardenというと、ジャムバンドやロックなど、いわゆる野外フェスらしい音楽が鳴っているイメージがあると思うが、ここ2年ほど、HIPHOPも混ざりだした。カギになっているのは、グリーンエナジーステージの制作に協力いただいているDJのAUTOだ。今回は、アースガーデンにも出演経験があり、戦極MCバトルにて活躍しているラッパー田中光と共に、HIPHOPから見える街の風景を話してもらった。