音楽のチカラなんて、おこがましい。坂本龍一と後藤正文が語る「あの日から一年。3.11 のその先にあるもの」

2012年3月11日。私たちはPeace On Earth に参加した55,000 人の人たちと3.11のその先を考えた。震災から1年の刻、14時46分18秒。2万人が沈黙を共に黙祷した。そして、静まり返った日比谷公園の真ん中のステージで始まった、2人のお話しは。

_DSC8710

あの日から一年。3.11 のその先にあるもの。
坂本龍一×後藤正文

音楽のチカラなんて、おこがましい。「寄り添う」くらいの気持ちだよね。

坂本「よくメディアなんかでは、「音楽のチカラ」とかいうじゃない?そういうのどう思いますか?」

後藤「やっている側としては、敢えて言われるとおこがましいというか、そういうつもりでやっている訳ではないけどなって。」

坂本「僕もね、照れくさいし、ちょっと違うよなとか思うけど。でも、実際にゴッチくんは、被災地に行って音楽をやったりしているよね?自分ではどう思っているの?被災地の人を元気づけようとか思っていたりする?」

後藤「それとはまた違いますね。どう表現していいのかわからないんですけど、特別ほどこすような気持ちではないです。もっと違うところに捧げている感じですね。」

坂本「元気を与えるとか、もらうとか言うじゃない?あれも僕は嫌いなんだよね。元気を与えてやるぞなんて態度で音楽やる人、そんなにいないと思うのだけど。ぼくには「寄り添う」って言葉が一番近いかな。一緒にいるって感じだな。」

後藤わかります。でも、音楽は無力だと言われると、それはそれでカチンと来るというか(笑)やれることだって、たくさんありますから。」

_NKN3310

一人一人の思いのある選択が世界を変えていく

後藤「僕がそもそも原発に興味を持ったのは、鎌仲ひとみ監督の映画を見てからなんです。その後、坂本さんの「STOP ROKKASHO」のことも知りました。今でも日本には、14,000トンの使用済み核燃料がありますからね。瓦礫の埋め立てですら紛糾しているのに、極めて高濃度な放射性廃棄物をどこに埋めるのか、そんなの決められっこない。

でもさらに、僕は怖いなと思うのは、みんなの意見の変わり様なんです。震災前に原発のことを発言したりすると、お前らミュージシャンは電気をいっぱい使っているくせに何言ってるんだっていう言葉がものすごく飛んできたんですね。それが、今はガラっと変わりました。それに対しても違和感があるんですよ。みんなが分かってくれているのはうれしい。でも、また別のキッカケで簡単にひっくり返るのではないかと。」

坂本「魔女狩りのように、東電職員は全部悪いみたいな、家族まで差別される風潮も困ったものですよね。もちろん、東電の中にも、自然エネルギーを研究している人たちもいるし。お互い冷静になって、どうしたら乗り越えられるかっていうのを真剣にやっていきたいですね。」

後藤「持続可能なエネルギーを求めるのならば、その活動も持続可能なものでないと駄目な気がするんですよね。対立してばかりでは、一向に良くならないというか、持続できないでしょうって。」

坂本「みなさんもよくご存知でしょうが、日本は食もエネルギーも自給率が非常に低い。海外に頼っているわけですから、そこで戦争とか災害などで供給がストップしたら、日本人は食べていけない。エネルギーを毎年買ってくるわけですけど、ものすごい量なんですよね。年間で20兆円以上買っているようですね。

みなさんが頑張って仕事して稼いだお金が、燃料と交換で海外に出ていってしまうというわけですよね。そのお金があったら、国内で食やエネルギーを自給するために使ったほうがいいんじゃないかなぁと思うわけです。そんなに沢山お金あるんだったら、狭い国土だけど、自前でまかなえるんじゃないかと。」

後藤「日本のエネルギー自給率って確か4%ぐらいで、地中海のマルタ島っていう淡路島の2/3ぐらいの面積の島と同じくらいの比率なんですね。これだけ大きな経済を持つ国が、そんな小さな島と同じかっていう。しかも、ツアーとかで全国を回るとよく分かるんですけど、田んぼがどんどん荒れ果てています。この余っている土地をもっと活用しなくてはと思うんです。なんで野放しになっているんだろう。もうちょっとうまくできそうな気がするんですけどね。」

坂本「でもね、そういったことを一つ一つやっていくには、法整備が必要で、それには政治を変えなきゃいけない。僕らの思いをたくせる政治家がどこにいるんだろうって、感じですよね。

中沢新一くんたちが、緑の党のようなものをつくろうとしているのは、とても賛成ですね。僕らの思いをたくせる政治家を送り出す必要があるわけです。ぼくもドロドロした政治とか大嫌いですけど、嫌いだからと軽蔑している場合ではないと思います。

当然、地球には限られた資源しかありません。どうしたら、未来世代も使えるように資源を残しながら、持続可能な形で消費していくか、作っていくかを考えて実行していかなきゃいけない。よく、環境問題っていうのは世代間の戦争とも言われます。

つまり、限りある資源を未来世代に残せば、それは世代間でのシェアだけど、未来世代の分までぶんどって使っちゃおうというのは、未来世代の資源を奪っていることになりますよね。今、生きている人間だけじゃなくて、これから生まれてくる未来世代のことも考えて限られた資源を有効に使わなきゃ。」

後藤「思いのある選択をしたいですね。原発って言ったって、結局はお湯沸かしてタービンを回しているだけです。火力も同じです。その電気でもう一度家でお湯を沸かすってどれだけ非効率的なのかって感じですよ。ひとつひとつの選択に気を使う人が少しずつ増えていく。それが世界を変えていくのだと思いますね。」

_NKN3320

日本にある何十万もの森を再生する

坂本「1日の中で自然の事を考えたり、感じたりする時間がどのくらいあります?僕も含めてね、非常に少ないでしょ。自然が発しているメッセージを全然聴けていませんね。だからこそ、自然が大きなパンチを食わせてくる。そして、僕らは目が覚める。

覚めるんだけど、人間は忘れっぽいので、日常に埋没してしまう。ということの繰り返し。ホントは、これを忘れちゃいけないよね。

自然のメッセージを聴くっていうのは、アートとか音楽とか芸術の根源的な役割じゃないかなって最近思うのです。洞穴に住んでいたようなぼくらの先祖が、獲物はどこにいるかとか、足跡を見て何の動物か分かるとか、風を読んで天候を予知するとか、そういうのが分からなければ、自分が生きていけないわけですから。

それができることが、生存の必須条件ですよね。ただ、そういう本能は、現代社会では鈍化している。もう一度それを取り戻すには、ぼくらがやっている音楽や、アートの重要な役割なんじゃないかなと思うわけです。縄文時代、興味あるんだよね?」

後藤「そうなんですよ。何かに興味をもって調べていくと、いつも坂本さんが先にいらっしゃる。原発のことは『STOP ROKKASHO』があるし、森のことは『more trees』があるし。」

坂本「どんどん、抜いていってくださいね。ぼくももう、おじいいちゃんなんで(笑)

今はmore treesって会社を始めて5年目。森の再生をやっています。日本に10 個のmore treesの森っていうのができて、フィリピンでも植林をしていますね。日本っていうのは、先進国で2番目に森が多い。国土の70%近くが森で、とても豊かな土地です。

でも、日本の森は人工林が多い。建築に使うために、戦後、日本中で植林が行われたわけです。森が多いけど、人口の森だから、人の手でメンテをしてあげないといけない。生い茂っている木を間伐して、森の中に光を入れてあげる。そうしないと、木が不健康になり倒たり、保水力がなくなって、生物が暮らせなくなる。悪いことばかりです。

日本の林業は衰退していて、お金を生まない。なんとかして山にお金が回るようにしなくては。まだ、10個ですからね。日本には何十万もの森がありますから、本当に大変な仕事を始めてしまったと思っていますよ(笑)」

後藤「日本の林業がもったいないと思うは、4 割ぐらいの木を捨てているんですよね。山に放している。それを使わないのはもったいないですよ。輸入されてくる木は安全面も心配がありますし。結局のところ、様々な問題の終着点は、みんなのチョイスにかかってくる。一人一人がどんな選択をするのかです。

思いのある選択をしていける人が一人ずつ増えていくことで、世界は変わっていくのだと思っています。」

写真:須古恵