毎年最後だと思ってやってきた── 。2022年のROVOを象徴するフェスティバル「MDTフォレスト」開催の思いを聞く

多摩あきがわライブフォレストに、これだけのアーティストが集まり開催できるなんて、奇跡ですよ。僕たちは、奇跡の連続の中にいるんです── 。

2022年7月23日に多摩あきがわライブフォレストで開催される「ROVO」主催「MDTフォレスト」。出演アーティストは、ROVO企画には初登場の「マヒトゥ・ザ・ピーポー」と、2017年以来5年ぶりの共演となる「OGRE YOU ASSHOLE」という最高のラインナップ。また、キャンパー用のステージでは「勝井祐二」がアフターライブを行います。

日比谷野音で毎年「MDTフェスティバル」を開催してきたROVOが「なぜ、あきる野ライブフォレストで『MDTフォレスト』をやるのか」。ROVOの勝井祐二さんと、ROVOマネージャーの小川雅比古さんにその思いを聞きました。聞き手は「フェスおじさん」こと菊地崇さんです。

左から、勝井祐二さん、小川雅比古さん、菊地崇さん

2022年のROVOを象徴する「記憶されるライブ」に

── 2020年、2021年の振り返りはあとで聞くことにして、まずは本題に入りましょう。今年は「MDTフェスティバル」ではなく「MDTフォレスト」として開催。2020年にライブをした「多摩あきがわライブフォレスト」にROVOが帰ってきます。

勝井 多くのライブやフェスが開催されるようになって、2020年、2021年とはずいぶんと状況が変わりました。2022年のMDTフェスティバルをどうするか、相当悩みましたよ。本当に悩みました。人数制限は?アルコールの販売は?どんな音楽性のフェスにするか………。メンバーや小川くんとみんなで話して出た答えが「MDTフォレスト」なんです。

── 多摩あきがわライブフォレストでやろう!というのも、そのときに決めたんですか。

勝井 そう。2022年のROVOがやりたいのは、あの森の中での「MDT」でした。日比谷野音で「MDTフェスティバル」を開催しようとすると、どうしても2019年までと比較して制約が生まれてしまう。それがずっと引っかかっていたんです。

── ある意味「引き算」になってしまうわけですからね。

勝井 でも「MDTフォレスト」なら、あの場所でしかできないことを新しくつくっていけるんです。音楽としても新しいことを試すつもりですし、とても重要な1日になると思います。2022年のROVOを象徴する「記憶されるライブ」になるはずです。

僕たちは、奇跡の連続の中にいる

── OGRE YOU ASSHOLEとマヒトゥ・ザ・ピーポーという2組の出演も最高です。

勝井 まずオファーしたのはOGRE YOU ASSHOLEでした。彼らは、八ヶ岳の山麓、長野県原村に拠点となるスタジオを持っていて、メンバーの一部はそこで生活しながら音楽をつくっているんです。今回の環境や僕たちの実現したい方向性を考えたときに、OGRE YOU ASSHOLEしかいなかった。オファーしたところ、すぐに快諾いただきました。

── OGRE YOU ASSHOLEは、都市と自然をうまく音楽に落とし込んでいますよね。先日、渋谷のO-EASTで見た彼らのライブは思いきり「夜のクラブミュージック」といった内容でした。MDTフォレストでは、明るい時間の森の中でしょうから、またまったく違う音楽を聞かせてくれるのだろうと楽しみです。

勝井 OGRE YOU ASSHOLEが決まったあと、すぐさま「あー、マヒトがいいんやないか」と、ROVOの山本さんが言ったんです。まさしく、ですよね。

── GEZANしか聞いたことない人が、マヒトゥ・ザ・ピーポーのソロを聞いたら、その違いにびっくりでしょう。シンガーソングライターとしても素晴らしいアーティストです。UAの新しいアルバムにも良い曲を書いていますね。

勝井 マヒトは、山本さんが店長を勤める大阪の老舗ライブハウス「難波ベアーズ」で育ってきたので、山本さんにもとても大切なアーティストなんですよ。今回はソロでお願いしましたが、GEZANともいつかやりたいです。

── とてもいいブッキングですよね、本当に。

小川 僕たちは「毎年、最後かもしれない」と思って、MDTフェスティバルを開催してきました。なぜなら、日比谷野音は、あそこでライブしたいアーティストが本当にたくさんいるんです。毎年ROVOが使える保証なんてなくて、17年間連続、野音で開催できたのは、奇跡のようなこと。だから、毎年「今年が最後かもしれない」と全力で準備してきました。それは2022年も変わりません。多摩あきがわライブフォレストに、これだけのアーティストが集まり開催できるなんて、採算的にも奇跡ですよ。僕たちは、奇跡の連続の真っ只中にいるんです。

勝井 OGRE YOU ASSHOLE、マヒトゥ・ザ・ピーポー、そして多摩あきがわLiveForestでの開催。都心から離れて、森で過ごす。駅からの歩く道中も含めて「MDTフォレスト」の体験を参加者と共有したい。これが今年の僕たちからのメッセージです。

とにかくやれることをみんなで探した2020年

── ここからはこの2年を振り返りましょう。2020年は京阪ツアー、日比谷野音「MDTフェスティバル」、蒲郡「森、道、市場」、新潟「フジロック・フェスティバル」など、予定していたライブができなくなった状況から一転、今回の会場である「多摩あきがわライブフォレスト」でライブを開催しましたね。

小川 そうですね。ただし「MDTフェスティバル2020」は「家から宇宙へ!」を掲げ、開催予定だった5/10のROVO出演時間に「MDTフェスティバル2019」のROVOライブ映像をノーカットで配信したんです。今でこそ配信技術はずいぶんと上がってきましたが、当時は始めてのことばかり。いろいろと苦労しながらどうにか実現できました。

勝井 ただ純粋に中止するのは嫌だったんです。このままでは終われない。何かやりたい、と。

小川 視聴してくれたみなさんは本当に楽しんでくれたようで、大きな反響がありました。

── 2020年は、アースガーデンが主催する「ハイライフ八ヶ岳」でもライブをやっています。

勝井 あの年は、アーティストも音楽関係者もこれまで経験のない状況に追い込まれ、何もかにもがストップしました。本当に大変でしたが、みんなが「とにかくやれることを探そう」とひとつになっていたとも言える。

ROVO @ ハイライフ八ヶ岳2020

「ひとつの正解なんてない」ことがはっきりした

── 2020年は、みんなが「どうにか乗り越えていこう」っていうモチベーションを持っていたと思います。

勝井 しかし、2021年になるとちょっと様子が変わってくる。少し話は戻りますが、2020年5月頃に、System 7のメンバーであるミケットとメールをやり取りしたんです。あの頃の日本の音楽業界は「今は大変だけど、夏、遅くても秋には元に戻っているだろう」と今思えば楽観的でした。彼らも8月に来日すると聞いていたので「2020年の夏、日本でどんな予定なんだ?」と聞いたら「何を言ってるんだ!来日は当然中止だし、フジロックの開催も難しいだろう。オーディエンスを入れてライブができるようになるのは、おそらく2022年だ」と、返信があった。本当にそのとおりになりました。

── 2021年があんな年になるなんて、私も思っていませんでした…。オリンピックを取り巻く問題や、フジロック開催をめぐる議論など、2020年よりも2021年のほうが混乱していたかもしれません。

勝井 2020年は「新しいクオリティ」を「一緒につくっていこう」という意識や価値観を、多くの人と共有できていたように思うんです。しかし、2021年になるとより複雑になりました。一人ひとり、置かれている状況や立場の違いによって、考え方も変わる。アーティストであっても、例えば同居家族に医療従事者や高齢者がいれば、ライブに出演するかどうかは相当に悩むでしょう。ROVOのメンバーも、それぞれの考えや事情があります。明らかな「正解」はないんですよね。

ROVOと参加者でつくってきた「MDTフェスティバル」のカルチャー

── とはいえ、2021年の6月には「MDTフェスティバル2021」の開催をして、多くのファンが集まりました。この年は、これまでのMDTフェスティバルと大きく異なる開催形式でしたね。

勝井 集客は半分以下、お酒は売らないし持ち込みも禁止、全席指定席で踊るのは自分の席の前。さらにラインナップも変えました。毎年ROVOも含めた3組のアーティストでしたが、2021年はキセルとROVOの2組としました。

── MDTフェスティバルといえば、ダンスミュージックで思いっきり踊り、人によっては浴びるようにお酒を飲むフェスというイメージがあります。

勝井 実際、日比谷野音の売店のアルコールの売り上げは、MDTフェスティバルの日がダントツで高いそうです。年に一度の大祭りですよね。我を忘れるほど楽しんで踊ってほしかったし、それを楽しみにしてくれているファンがいる。とはいえ「これはちょっと…」という状況もあった。例えば酔いつぶれて音楽をまったく聞いてない人がいたりして。

── 「何を演奏したのか、全然覚えてない」なんて、アーティストとしてはかなりがっかりしますよね。

勝井 しかし、忘れてはいけないのは、17年連続、日比谷野音でやってきたMDTフェスティバルのカルチャーはROVOと参加者が一緒につくってきたということ。だからこそ、コロナ禍になったからといって頭ごなしにすべてを禁止・管理という形にはしたくなかったんです。例えば「全席指定席だけど自分の席の前で立ち上がって踊るのはOK」というルールは、参加者とROVOとスタッフが細かくコミュニケーションを取りながらつくってきたもの。いろいろと試行錯誤した先にあった開催でした。

── 「MDTフェスティバル2021」の手応えはどうだったんですか。

勝井 僕らも参加者も、音楽に集中してかなりいいライブができたという自負があります。メンバーとも「これまでとは違う手応えを得られた」と話しました。

だからこそ「MDTフェスティバル」での17年と同じように、ROVOと参加者で「MDTフォレスト」のカルチャーを新しく築いていきたい。そう思っています。

── 本当に期待が膨らみます。きっと、その期待を遥かに超える時間になるんでしょうね。今日はありがとうございました。


日程:2022年7月23日(土)
時間:開場15:00 / 開演16:00 (終演予定 20:00)
場所:東京・多摩あきがわライブフォレスト(深澤渓・自然人村 内)
料金:キャンプイス指定席¥6,500(完売) / スタンディング¥5,500 / 駐車券¥2,000
主催・企画:ROVO / ワンダーグラウンド・ミュージック
制作・運営:SALMONSKY / アースガーデン / ソラリズム