ローカルフェスティバルは、かっこいい大人を育てる<頂 -ITADAKI-> #フェスティバルってなんだ

静岡県の中部に位置する吉田町で開催している野外フェスティバル「頂 -ITADAKI-」。来場者の半数は静岡県内から来ていて、音楽好きな地元の人たちがスタッフや出店者として、イベントを手伝う。地元で愛されているローカルフェスティバルです。

坂道も砂利道もなく、メインエリアにいるだけでほぼすべてのライブを楽しむことができる非常にストレスフリーな野外フェスティバルです。イベント運営を支える多くのボランティアたちに守られ、多くの家族連れが来場し、常に子どもたちの笑い声が聞こえてきます。

頂の特徴はストレスのない環境だけではありません。むしろ最大の「頂らしさ」は「かっこいい大人としての美学」を貫く姿勢にあると思っています。「たくさん集まる子どもたちに、大人はどんな背中を見せるのか」と、来場者を試しているような…。

例えば、頂ではステージ照明・音響、出店の電気なども含めた、会場内の全ての電力をバイオディーゼル発電(BDF)でまかなっています。来場者には廃油持参を呼びかけ、事前回収も含めて4,000リットルもの廃油が集まります。

頂らしさの根本に何があるのか。さらに、地域にどんな影響を与えているのかを考えるために、頂の主催であるBOOMBOOM-BASHの小野佳代(写真右)さんと、頂の運営メンバーの一人で、静岡で活躍するダンスインストラクターのKYOKO(写真左)さんに話を聞きました。

未来に愛を

佳代「経営していたライブハウスを閉めるときに開催した野外フェスティバルが、頂の前身です。その頃から廃油持参を呼びかけていました。翌年の2008年から『最高の音楽と最高のシチュエーション』をテーマに『頂』として改めてスタートしました」

KYOKO「私はずっとダンスをやっていたので、音楽を楽しむ場所といえば、クラブやライブハウス。野外フェスティバルなんて行ったことなかったんです。頂 代表(通称 ボス)は、地元の大先輩として昔から慕っていて『ボスがなんかやるなら絶対に楽しいでしょ!』って、パーティー盛り上げ役として遊ばせてもらっていました。その中で、廃油がエネルギーに変わることを学んだし、野外の楽しさを知った。頂は地元の若者に新しい発見をくれたり、考え方を教えてくれるような存在です」

頂では、コンセプトを「LOVE FOR THE FUTURE」としています。BDFも、マイ食器の持ち込みを呼びかけるのも、このコンセプトに沿ったもの。頂らしさを表現するキーワードです。

享楽的な幸せではなく、本質的な幸せを

LOVE FOR THE FUTUREのコンセプトはどこから生まれたのでしょうか。

佳代「『未来に愛を』の言葉通り、未来のために今できることをはじめようというのがはじまりです。子どもたちには幸せになってほしいじゃないですか。人生は楽しいことばかりじゃないけど、辛いときに『こんなに幸せが溢れている場所』があるんだっていうことを思い出してもらいたいんです」

KYOKO「私たちのエゴかもしれないですが、自分たちが幸せならそれでいいって大人になってほしくない。だからいろんな境遇の人がいることを知ってほしいし、協力できることがあるなら協力する大人であってほしい」

佳代「大人がただ騒いで、ただ楽しければいいってフェスティバルはいろいろあると思うけど、頂では、子どもが見たときに恥ずかしくないように楽しんでほしいんです。ポイ捨て禁止と言われなくても、ポイ捨てはしない。かっこいい大人として持つべきマナーがあるはず」

BDFやリユース食器、ボランティアとの運営など、LOVE FOR THE FUTUREの追求は、煩雑で予算も余計にかかる。合理的に運営するならデメリットばかりです。それでも「頂にとって譲れないものがある」と小野さんは言います。

頂らしさとはなんでしょうか。僕は「『本当の幸せ』ってなんだろう、を突き詰めている」ことにあるのだろうと感じました。目の前だけの享楽的なものではなく、誰かと助け合い、誰かと一緒につくる幸せ。そんな大人の背中を見て、子どもは「幸せとは何か」をなんとなく感じ取っていくのでしょう。

人を呼ぶだけじゃなく、人を育てる

頂らしさを考える上で、興味深いエピソードがあります。頂では「CANDLE TIME」が夕方から始まります。ステージの照明も、動線やトイレを照らすライトも、店舗の電灯もすべての電気を止めて、来場者やスタッフが持ち寄ったキャンドルの灯火だけで過ごす時間。美しくキャンドルに彩られたステージでアコースティックなライブが行われます。このとき、その光景をスマートフォンで撮影をしようとする来場者がいたら、ボスにめちゃくちゃ怒られます(笑)。

佳代「とても美しい時間なので、撮影したくなる気持ちはわかるんですけどね。スマホを取り出せば、その周りの人はディスプレイの明かりに照らされてしまうので。でも、怒鳴るのはさすがにやりすぎなんじゃないかって心配してるんですけど、ある時、怒鳴られた人から謝罪のメッセージが届いたんですよ。その方にはちゃんと私たちの思いが届いたみたいです」

ローカルフェスティバルというと、地域おこしの文脈で語られることも少なくありません。でも、頂は県外から人を呼び集めるだけじゃない。かっこいい大人を育て、かっこいい大人になる子どもを育てているフェスティバルです。

例えるなら、ちょっと怖くて、尊敬されている地元の先輩のような存在かもしれません。世の中に存在するあらゆる音楽だけでなく、廃油で電気がつくれることや、大人の振る舞い方を教えてくれる。子どもに恥ずかしい背中を見せれば容赦なく怒られる。地元で愛されている、みんなの先輩。ローカルフェスティバルにはそんな役割もあるのではないでしょうか。

頂 -ITADAKI- 2019

2019年6月1日〜2日
@静岡 吉田公園特設ステージ
http://www.itadaki-bbb.com/