【インタビュー】森から生まれるストーリーをつなげ、伝えていく「KEES Project」

中央アルプスと南アルプスに囲まれた美しい盆地。長野県伊那市。ここに今、森と街をむすび、スモールビジネスをつうじて里山の保護と、地域活性に取り組む人たちがいます。中心となるプロジェクト『KEES』について、そのメンバーであるミツロウキャンドルのワイルドツリー代表の平賀裕子さんにお話を伺いました。

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木を切らなくてはならない国、日本

今、日本では、積極的に木を切っていかないといけないんです。一般的には、木は切っていけないというイメージだと思います。世界的に見れば、森林の荒廃が進んでいるのが事実です。でも、日本は特殊な状況にあります。

日本の森の状況を説明しましょう。1960年ごろまでは、山の資源と私たちの生活は密接につながっていました。山菜を食べ、建築物の資材として森の木材を使い、そしてそれらをとってくる仕事が生まれ、街で販売される。そういった生活が徐々に失われると、森の仕事が減り、人が関わらなくなりました。そうすると、今度は木が生えすぎる、育ちすぎるという状況が生まれます。

木が生えすぎている森。暗く地面に日が入りません。
木が生えすぎている森。暗く地面に日が入りません。

過去に人が手を加えた森は、適度に間伐し、森の土に光を入れていかないと森の生態系が保てず、荒廃してしまうのです。なぜこうなってしまったのか。それは、国内の木材需要を国外の木を輸入することでまかなってきたからです。日本は、国外の森を荒らし、国内の森も荒らしてきたという二重の罪を抱えています

森を守るスモールビジネス

適切に間伐された森はとても明るい
適切に間伐された森はとても明るいのです。

間伐を推進するため、様々な取り組みが地方自治体によって行われていますが、長野県では森林税が徴収され、間伐を行うためのサポートや、間伐材の活用に利用されています。今回取材したKEESもその税金の使いみちとしてスタートしました。

町おこしとして、商店街でバラを育てていたんですが、バラはきれいだけど、鉢がイマイチ。どうにかしたいという話があって。地元の間伐材を利用することになりました。でも、ちゃんと本質的なことにしないといけないと思って。

取材時、伊那のそば畑がとてもきれいでした。
取材時、伊那のそば畑がとてもきれいでした。

平賀さんは、ミツロウキャンドルのブランド『ワイルドツリー』の代表。石油化合物パラフィンを使うキャンドルが主流の現在ですが、ワイルドツリーではエコロジカルでオーガニックなオーストラリアのミツロウを使い、販売しています。丁寧なスモールビジネスを続けてきた平賀さんですから、モノを作って、それで終わりではなく、循環していくような仕組みにしたかったそうです。

本質的なモノづくりをしたいと思い、商店街の人だけでなく、間伐材でモノづくりをしている木工家、街づくりに興味がある建築家など、様々な人と相談しながらコンセプトとプロダクトを計画しました。

そして、はじめから言っていたことは「売れるもの」をつくること。間伐材の問題は売れるものがつくれないと解決しないんです。今は補助金で間伐できているけど、人口も減っていく地方都市ですから、税収入が減れば間伐できなくなる可能性もあります。

子どもたちと一緒に、30年後の森をつくる

生まれたプロダクトは、穴の開いた板状の木材と、それをつなげるための棒で構成される家具キットでした。鉢だけでなく、イスにも棚にも、子どもが遊ぶブロックにも使える、組み合わせ自由のキットです。伊那の森で、伊那の木こりが間伐し、伊那の製材所で切断し、伊那の木工所で加工する。流通を見据えたパッケージや販促物など、売れるものをつくるために必要なものはワイルドツリーの経験が活きます。

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プロダクトだけでなく、ストーリーブックを作って、読んで木の循環を伝えていったり、KEESのレンタルや、ワークショップを全国で開催し、子どもたちにKEESを体験してもらっています。また、「KEESの森の一日」というプログラムでは、実際に間伐をする森にいって、間伐の様子を見ることもできます。自分たちが触れている木材が育った森を見学し、モノづくりの循環を実感できます。

また、販売を拡大してくために板状の木材を小さくした「ミニKEES」の制作や、間伐材を使った木箱づくりのキット「KEESBOX」など、展開の幅を作りながら取り組んでいるそうです。

盆地の景色も美しい
盆地の景色も美しい

伊那市のように、こんなに山や森に囲まれていても、森を育てていくことや、間伐材が資源になることが、子どもたちに十分に伝わっているとは言えません。地元の子どもたちが森に興味を持ち、また森に帰ってくるという循環も作っていくために、小学校と一緒に共同で授業も行うことになりました。伊那市だけでなく、それぞれの地域で、それぞれの山を使ってKEESのようなプログラムができるといいですよね。

販売量が増えてくれば、建材などで使えない、細い木や曲がった木などを買い取り、KEESに使うことができます。森の資源をより大切に使うために、販売量を増やしていくのが今後の課題であるとのこと。森を育てるのは、人を育てるのと同じくらいの年月がかかります。今の子どもたちが大人になる頃に、森と向き合い、森と共生していくために、KEESは森の循環を伝えていきます。