何もないことがある美しさ。映画みたいな島根「CIMANETIC」

どこに旅に行きたい?と質問されて、なかなか具体的な地名を答えられない最近の自分。観光名所は大体ウェブやカタログに載っていて、実感がなくても予想はついてしまうんですよね。いや、もちろん、リアルな体験は、予想とは全く違うものだとは思います。しかし、足を動かすほどの衝動がない。

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そんなときに「誰も人がいないところっていうのが、いっぱいあるんですよ。だから、物思いに耽る旅にはおすすめです。島根は。」と、教えてくれたのは、株式会社益田工房というデザイン会社の東京支社を率いる大石さん。「映画みたいな島根」というキャッチフレーズで「CIMANETIC」というウェブサイトを運営しています。

22 Dec. 2015 View of Hotel Shinjiko's room, Nishiyomeshima , Matsue, Shimane, Japan. from MASUDA KOHBOH inc. on Vimeo.

「ぼくの地元島根県って、観光資源が少ないんですよ。みなさんも、ご存知かなと思うのは、出雲大社。あとは石見銀山。世界遺産なんですけど、あまり知られてないんですよね。他の県の観光地と同じレベルで張り合えるかっていったらかなり微妙だと思っています。でも、逆に、何もない場所、何もない風景、そういったものをウリにできないかなと思ったんです。そういうところに行きたい人は、今それなりにいる気がしたんです。」

22 Nov. 2015 Jingyou Pass, Iinoura-cho, Masuda, Shimane, Japan. from MASUDA KOHBOH inc. on Vimeo.

そうそう、いますよ。ここに。ほら、まさしく僕とか。

「島根とシネマをひかっけて、シネマチックをシマネチックとしたんです。何もない風景を撮影して、映画っぽい加工を施す。それを垂れ流してダラダラと見てほしいなと。よくおしゃれなカフェで映画の音声をミュートにして垂れ流してたりするじゃないですか。あんなイメージです。」

ないものねだりとは「”ない状態”を”ある状態”」にしたいという気持ちですが、それは常に自分にとってないものを探しにくことです。”ある状態”が普通だから、逆に”ない状態”を欲するのでしょう。そんな禅問答のような気持ちの変化を持つ人が少しずつ増えているとしたら、ぼくはとても希望を感じたりします。

2015年4月4日 島根県松江市玉湯町 玉造温泉駅 from MASUDA KOHBOH inc. on Vimeo.

最近では、ミニマリストなんて言葉がTVで紹介されたりしますが、彼らは極力所有し ないように生きる生き方を選んだ人です。ちょっと前だと断捨離なんて言葉も流行り ました。所有に疲れた人が少しずつ増えているのだと思います。

それはそうでしょう。 お金もない。時間もない。それなのに物を増やしても幸せにはなれそうもない。もう お腹いっぱいなんです。物にも情報にも。そして、時を同じくして、注目されているの が“DIY”や、”仕事をつくる”というような、ないところから、ある状態を、自分の力で生み出すということです。

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さて、今回紹介している「CIMANETIC」は、”何もない状態”に、そこにしかない”美し さ”を見出し、伝えるプロジェクトです。それは、大石さんたちが、自分たち自身で見つけ 出した美しさです。その何もないという美しさをみて、不思議と行ってみたいと思うの です。それは大石さんたちの映像、デザイン技術の高さのおかげでもあるでしょうし、 なかなか何もない状態になれない現代人としてのないものねだりかもしれません。

「誰も人がいないところっていうのが、いっぱいあるんですよ。だから、物思いに耽る 旅にはおすすめです。島根は。」

何もないところに何があるんだろう。僕はそこで何を見つけられるだろう。ほら、行っ てみたくなったでしょ?