【小林武史インタビュー】生きる実感を取り戻すために、出会いに行く。ボランティアに行く。<Reborn-Art Festival>

2012年のap bank fesは、初回から開催場所としていた静岡県つま恋に加えて、淡路島と宮城県の3箇所開催となった。首都圏、阪神大震災から復興した関西、東日本大震災から1年半後の東北。人や出会いの循環へ思いを込めた開催だった。そして、ap bank fesの開催が止まった。「もうやらないんだろうか」多くの人がそう思ったに違いない。

しかし、昨年、びっくりするニュースが飛び込んできた。51日にも及ぶアートイベント<Reborn-Art Festival>を2017年に開催。それに伴うプレイベントとしてのap bank fesが2016年に復活し、2017年も開催されることが決まった。突如と感じる発表だったが、小林武史のなかには、震災の後からずっと抱えてきた思いがあった。

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photo by 片岡一史

ー ap bank fes からReborn-Art Festival( 以下 RAF)への変化に関して、小林さんの思いがずっと気になっていました。

震災以降、復興をテーマにap bankとしていろいろ動いていたんだけど、結局、復興ってなんなの?って、課題にぶち当たることになる。原発事故が明らかにしたのは、大きい経済への依存の問題だよね。それなのに、また依存を取り戻して景気が良くなることが復興なのか。仙台市は、復興バブルで飛び抜けて景気のいい街になった。でも、ちょっと離れた石巻では、過疎の問題を10年早回ししたって言われているくらい人口が流出してしまった。

現代アート、やるなぁ

Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016
Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016

現代アートを中心とした地方型の芸術祭が盛り上がっているなというのは感じていて、僕も実際に、大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭に行ってみたりもした。これらのイベントは、地方に取り残されていく集落の美しさや人とのつながり、佇まいそのものを浮かび上がらせているんだなと思った。

光がピカピカと当たっていると、実態がよく分からない。でも、夕暮れ時になると、質感が分かるときがあるでしょ?僕は山形の生まれだけど、雪の質感は、夕暮れのほうが分かる。今日は、とっぷりと積もったなぁとか。復興バブルの仙台を横目で見ながら、その影になっているような石巻や他の地域を見て、同じような感覚をもったんですね。

Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016
Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016

イタリアのヴェネツィア・ビエンナーレにも行ってきてね。グローバリズムの暴走というか、突き進んでいくグローバリズムから取り残されて生まれる歪みのようなものに対する鋭い視線がメッセージとして描かれていて。正直、現代アート、やるなぁって思ったよ。アートの本来の役割を果たしているな、と。一方で、音楽はファンビジネスになりがちで、新しい化学反応や出会いが起きにくくなってしまっている。

それに加えて、ap bank fesは、環境問題を多くの人に伝えて考えていこうということで続けてきたけど、それは1人1人がよく考えようっていうことに落ち着いてしまうし、イベント自体も、環境への配慮が行き届いているショーケースのようで、ちょっと窮屈だなって感覚もあった。

地方型の芸術祭のあり方。世界的な潮流として現代アートが果たしている役割。そして、ap bank fesが煮詰まっていたこと、そういったものが全部重なっていった結果、RAFの開催に行き着いた。

ー 石巻を中心の場所として捉えているのが、ひとつの特徴ですよね。牡鹿半島からみちのく杜の湖畔公園まで、非常に広いエリアを舞台としています。

なるべく“東北ごと”として、開催をしたかったからね。牡鹿半島は、入り組んだ浜ひとつひとつに歴史があって、文化が豊か。突端には鮎川ってクジラの町もあるし、金華山もある。さらに、ちょっと離れれば、松島や塩竈といった全国区の観光地。

みちのく杜の湖畔公園まで西に行くと、福島からも来やすいと思う。石巻を中心にすると、様々な要素がクロスして、熟成していくようなイメージが見えた。

出会いに行く、見えるものから抜け出す

ー今回は開催期間も長いですよね。51日にも及ぶ開催期間にお客さんやボランティアさんが絶えず会場に集まる魅力的なイベントにする必要があります。

photo by Moe Hasebe
photo by Moe Hasebe

最近、見えるものばかりに賭けていても、生きている実感を持ちにくいんじゃないかなって思うんですよね。見えることから抜け出してみる。日常からはみ出してみる。こういったことが、人生をおもしろくするんじゃないか。そんなこと言って責任持てるのか?って怒られちゃうような世の中だけど、無責任に言ってるわけじゃなくて。

ミュージシャンたちも面白いことに敏感な人が多いから「これをやってください。」「わかりました」っていうことからはみ出せる場であることをすごく楽しみにしている。ステージトラックを使って、様々な場所でライブをしたり、アート作品の前で突然パフォーマンスが始まったり、そういった小さい突発的なイベントを敢えてやってみようと思う。

ーそういった場面の最前線にいられるのは、お客さんじゃなくて、ボランティアかもしれませんね。

photo by Moe Hasebe
photo by Moe Hasebe

ボランティアだからといって、いつもミュージシャンのライブが見れるわけではないけど、一期一会の出会いをたくさん仕掛けていきたいと思ってる。RAFは要素が広い。音楽、アート、食。さまざまな才覚を持った人が集まってくる。それを受け入れる土壌が、震災以降にこの地には育まれた。中にいる人、外から来た人が混ざりあいやすいからこそ、さらに面白いことが起きると思うんだ。ちょっと覚醒するぐらいに、密度の濃い時間をつくっていきたい。

アーティスト・スタッフ・ボランティアが同じ釜の飯を食う

photo by Moe Hasebe
photo by Moe Hasebe

ー今回新しく運営の拠点になる場所ができるんですよね?

移転がきまった病院だった建物をReborn-Art Houseとして、スタッフやアーティストの宿泊施設として使えることになったんです。ボランティアのみんなもここを拠点に活動してもらうことになる。しかも、石巻の社会福祉法人のみなさんと、掃除やまかない、リネン関係などを一緒にやって拠点としての受け入れ体制を作ってくことになった。

Reborn-Art Houseができることで、食住はなかなか充実したものになると思う。ボランティアも、アーティストも、スタッフもここに泊まって、同じ釜の飯を食う。なるべく化学調味料を使わない食事を出そうと思っている。一緒に生活して、いろんな人間とのコミュニケーションをとっていくことで、いろいろな発見があると思うし、それが生き方、働き方についての考え方を変えるきっかけになるといいなと思っています。

Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016
Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016

僕も会期中はなるべく現地にいるようにしたいと思っています。どんなことが起きるか分からないからね。トラブル対応だけでなく、日々変わっていく会場の熱量に、リアルタイムでチームを合わせていくことが必要で、それはとてもおもしろいことだと思う。

ーボランティアとしてRAFを体験することによって、より深い経験ができそうですね。

とにかくね、“出会う”ということを意識的にやろうよっていうこと。今の世の中で、生き物として、それを求めないでどうするっていうくらいに思っている。それによって垣根は突破できると思うから、まずは出会ってみようということを言いたいです。たくさんの人にボランティアに来てほしいと思っています。長期の滞在も、一度帰ってもう一回来るようなリピーターも大歓迎だから。

昨年のボランティア

photo by Moe Hasebe
photo by Moe Hasebe

中山愛(24歳)

・なんで参加したか
初めて東北を訪れたのが東日本大震災から4年後の2015年。石巻の津波被災地が一望できる日和山公園から見た石巻は、自分が思っているより復興が進んでおらず、胸が苦しくなった。翌年、ずっと行きたいと思っていたap bank fes が復活し、それが石巻で開催されることを知って、ぜひ参加したいと思った。

・実際に参加してみてどうか
あの日、テレビで見た津波の被害にあった場所で、こんなに素敵なイベントが開催されたんだと思ったら色んな想いが込み上げてきて、涙が止まらなくってしまった。このイベントを通じて石巻で新しい出会いがあり、これからも東北に関わる活動をしていきたいと思った。またボランティアとして参加したい。

皆藤考史(34歳)

・なんで参加したか
初回からすべて参加しているほどap bank fesが大好きで、ボランティアをやろうと思っていたら開催が止まってしまった。また、東日本大震災のボランティアにも会社が組織したチームで参加したので、今、東北がどうなっているのかも見てみたかった。開催発表を見た瞬間から、今回こそはボランティアでいこうと思った。

・実際に行ってみてどうだったか
行ってよかったと素直に思う。津波でボロボロだった場所に大きなステージが立ち、お客さんが入って、みんなが笑顔でいれる場所になったことがうれしかった。そしてそのイベントを作る側にいれること、自分の活動がお客さんを笑顔にできていることは、お客さんとして来ていたら体験できないことで、大きな満足感だった。

Reborn-Art Festival 2017

日程:2017年7月22日(土)~9月10日(日)
場所:宮城県石巻市(牡鹿半島、市内中心部)、松島湾(塩竈市、東松島市、松島町)、女川町